プロジェクト名 | 研究代表者 所属・役職 |
概要 | 研究開発に協力する関与者 |
---|---|---|---|
養育者支援によって子どもの虐待を低減するシステムの構築 | 黒田 公美
国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター 親和性社会行動研究チームチームリーダー |
子どもの虐待防止には、親(養育者)側の問題解決が極めて重要であると考える。しかし、養育者のメンタルヘルス問題や日本の行政・法制度上の問題などが障壁となり、子どもの保護・支援に比べ養育者支援は大幅に遅れており、結果的に養育者の孤立や関係行政職の負担の増大を招いている。 本プロジェクトでは虐待リスク要因の4領域(親/子/家庭・社会/行政・法)において医科学と社会・法学研究者が協働し、個々の家庭の実情に即した支援を提供するシステムを開発する。また、科学的根拠に基づいて、従来の“指導・処罰”から、養育者の“支援”へと行政パラダイムを転換することで、当事者と福祉・医療・司法などの関係機関が協力し合える体制の構築に貢献する。 |
|
親密圏内事案への警察の介入過程の見える化による多機関連携の推進 | 田村 正博
京都産業大学
社会安全・警察学研究所教授 |
家庭や学校の事件・事故には警察を含めた多機関の連携が必要であるとされている。しかし、児童相談所や学校にとっては、警察の刑事事件としての介入の判断基準やプロセスが分からないなどの理由から、警察への情報提供にはためらいが生じがちである。また、逆に情報を提供しても期待した対応が得られない場合もあるため、多機関の円滑な連携が困難になっている状況がある。 本プロジェクトは、家庭や学校の事件・事故に対して、警察がどのような場合に、どのような要素を考慮して、刑事事件としての介入を行うのかを解明する。さらに、児童相談所や学校側の警察の介入に対する知識や問題点の認識、あるいは期待を照らし合わせた上で、関係機関側が警察の介入の内容や意図を理解して介入を予見できるツールを開発し、警察を含めた多機関連携が円滑に進むことを目指す。 |
|
多専門連携による司法面接の実施を促進する研修プログラムの開発と実装 | 仲 真紀子
北海道大学 大学院文学研究科教授 |
虐待、DV、知人による加害など、親密な関係性の中での被害の認知は遅れがちであり、対応が困難なケースが多い。その理由として、(1)当事者同士が関係性を断てない、断てないために話したがらない、(2)関係性への福祉的介入に加え、司法的対応が必要なこともあり、多専門(児童相談所、警察、検察、医療関係者など)による面接が多重に行われる結果、供述が変遷し、精神的な二次被害が増加し、的確な対応が難しくなるなどの問題がある。 本プロジェクトでは、多専門連携を困難にする心理的要因を調査し、精神的負担に配慮しつつ正確な情報を多く収集する面接法(司法面接)の習得、共有、連携を支援するプログラムの開発を目指す。研修と基礎的研究を繰り返しながらプログラムの充実を図り、技能を持つ専門家、トレーナーの育成と実事例の支援を通じて社会実装を図る。 |
|
高齢者の安全で自律的な経済活動を見守る社会的ネットワークの構築 | 成本 迅
京都府立医科大学 大学院医学研究科准教授 |
高齢化社会の進展とともに、高齢者の経済活動についての問題が生じている。意思決定能力の低下を理由に一律に取り引きを制限される、または、判断力の低下につけこまれて詐欺の被害に遭うなどの問題は、新たな仕組みを構築して解決する必要がある。 本プロジェクトでは、高齢者が地域で行う経済活動という「私」空間の情報と、行政や医療福祉といった「公」空間の情報のあるべき関係を明らかにし、自律的な経済活動を保障し、判断力が低下したときには保護される仕組みを提案する。具体的には、経済活動における認知症の影響を明らかにし、判断力低下を検知できるシステムを開発する。さらに、その情報を共有して保護につなげるための法的条件や新しい仕組みを社会実装した場合の経済的波及効果を明らかにして、新しい法制度と政策についての提言を目指す。 |
|
全国調査データベースを用いた児童虐待の予防・早期介入システムの開発 | 森田 展彰
筑波大学 医学医療系准教授 |
児童虐待は、一部の特殊な状況下に起こるものではなく、養育困難を抱える両親に孤立・ストレス・貧困など幾多のリスクが重なることで生じる問題である。家庭という私的空間で養育者が抱えるリスクを、関係機関や親自身が評価し、必要な情報や支援を提供する仕組みが十分に整備されていないことが虐待発生につながっている。 本プロジェクトは、児童相談所通告事例の全国調査データに加え、乳幼児健診受診者調査の分析を行い、虐待リスク予測式と対応ガイドラインを作成し、これを援助機関が共有する仕組みを構築する。さらに、養育者自身にも、情報提供および自身の養育行動やストレス状況の改善支援プログラムを提供する仕組みを開発し、幅広いレベルでの児童虐待の予防と早期介入を実現させる。 |
|
企画調査名 | 研究代表者名 所属・役職 |
---|---|
都市型コミュニティ(川崎市)における援助希求の多様性に対応した介入・支援に関する調査 | 島薗 進
上智大学 グリーフケア研究所 所長 |
ソーシャル・ビッグデータによる「いじめ問題」の検知に関する調査 | 曽根原 登
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立情報学研究所 情報社会相関研究系 教授 |
人と人の間の距離感を把握する社会システムに関する調査 | 藤原 武男
国立研究開発法人国立成育医療研究センター社会医学研究部 部長 |
子どものSOSの発見と支援のためのプラットフォーム構築調査 | 吉永 真理
一般社団法人子ども安全まちづくりパートナーズ非常勤研究員/昭和薬科大学 教授 |
「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域では、初年度の公募を7月から9月にかけて実施しました。公募にあたっては、東京と京都で説明会を実施し、研究開発領域全体の取り組みイメージを説明するとともに、さまざまな事象の背景や対処策に見られる共通の問題を取り上げる横断的視点、現場を対象にエビデンスを積み上げる制度設計に資する提案、そして何よりも、新しい「間」の構築に関する提案に期待することを強調しました。
これに対して、大学や研究機関、企業などから47件の応募が寄せられました。内訳は、研究開発プロジェクト38件、プロジェクト企画調査9件でした。社会システム・制度の創生と伝承に関わるもの、公/私が協力し適切に介入・支援するための「間」の構築に関わるもの、情報通信技術などの利活用による新たな支援機能の構築に関わるものと、提案内容は多様でした。また、研究開発の対象も、コミュニティ・高齢者・子ども・犯罪・医療介護・コミュニケーションと多岐に渡りました。
選考にあたっては、説明会で強調した視点を重視するとともに、公共機関などが保有する今まで埋もれていたデータを発掘し「間」の構築に役立てることができるかなども考慮しました。また、国内外の類似の取り組みや先行研究を十分に整理しているか、新規性や独創性を客観的根拠に基づいて示しているか、「間」の構築に関わる課題や障壁を十分に認識したうえで実施期間での達成目標を適切に立てているかなども評価しました。
選考の結果、研究開発プロジェクト5件とプロジェクト企画調査1件を採択しました。それに加え、研究開発プロジェクトとして提案されていた3件について、優れた構想ではあるものの有効な提案とするには更なる検討が必要であるとして、プロジェクト企画調査として採択しました。
採択された提案は、児童虐待が深刻化する背景に養育者が抱える問題への支援不足があるとして、その治療と予防に医療から司法までが協力する仕組みを構築しようというプロジェクト、認知症を発症した高齢者の購買行動や口座取引における異常を早期に検知し生活を守ることを目的とした、金融機関と連携して進めるプロジェクト、警察における犯罪的事象への介入判断の意思決定プロセスを明らかにして、関係機関との相互理解を深めることを目標とするプロジェクトなど、新規性・独創性に富んだ、しかし、社会実装を明確に目標とするものとなりました。また、「間」の構築については、多くはデータの発掘に関連するものですが、地域包括ケアシステムの範囲を超えて、精神障害者など多様な人々が援助希求行動(他人に相談したりや援助を求めたりする行動)に対応できる都市型コミュニティの構築を目指す企画調査も採択されました。
今回の採択が「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」のモデルケースとなるように、研究実施者とマネジメントチームが一体となって研究開発領域を推進していくように尽力いたします。
採択に至らなかった提案には、取り上げるテーマは重要であるものの計画や成果イメージの具体性を欠いている、あるいは、必ずしも本領域の目標・趣旨と合致しないといった課題が見受けられました。これらの点については、ご提案いただく皆様に趣旨をしっかりとご理解いただけるよう改善に努めてまいりますので、来年度も積極的なご提案を期待します。