本新技術の背景、内容、効果は次の通りです。

(背景) PETによる腫瘍診断薬原料18O標識水を、低コストで量産することが望まれていました。

 ポジトロン断層撮影診断(PET)とは、ポジトロン(陽電子)を放出する診断薬(造影剤)を患者に投与し、診断薬が体内で代謝される様子を断層画像として捉えることで、心臓や脳機能を検査する方法です。PET診断薬の一つである18FDG※1による腫瘍、心機能検査等は、日米欧で保険適用が開始されており、18FDGの原料となる酸素18安定同位体標識水(18O標識水)の需要が急速に拡大しています。
 18O標識水は水あるいは一酸化窒素を蒸留して生産されますが、よりエネルギー消費が少なく取扱いが安全な、工業規模で大量生産できる方法の開発が望まれていました。

(内容) 酸素蒸留により、18O標識水の高濃度(97%)、大量生産(100kg/年)が可能。

 天然の酸素には質量数16,17,18の三種類の安定同位体が99.76%,0.04%,0.2%の割合で存在します。本新技術では、工業用酸素を蒸留して、質量数18の酸素を濃縮し、高濃度の18O標識水を生産します。18Oの存在比が小さく、16Oと18Oの物理化学的性質はほぼ同じであることから蒸留分離は困難とされていましたが、浅野教授の研究成果である熱と物質の同時移動モデルを応用することで製造プラントの詳細設計を実現しました。製造工程は次の通りです。
出発原料の工業用酸素ガスを高純度化(99.999999%以上)する。
高純度酸素を充填物を詰めた蒸留塔に導入して気液接触を促進させ、まず存在比の多い16O18O分子を濃縮する。
16O18O分子を、原子の交換を行う同位体スクランブラーに導入し、18O18O分子を増加させる。
増加した18O18O分子を充填蒸留塔で濃縮し、18O原子比率を97%以上にする。
工程で得られた高濃度18O2ガスと高純度水素ガスを反応させ、18O標識水を製造する。
 本生産法は、従来の水蒸留法に比べ蒸発潜熱が約1/6と小さく、その分エネルギー消費を抑えることができ、また化学的に不安定で毒性を持つ一酸化窒素に比べて安全に取扱えます。これにより、97%以上の高濃度18O標識水の、100kg/年規模での生産を可能としました。

(効果) PET診断薬18FDGの原料として安定供給でき、医療分野での利用が期待されます。

 18O標識水の世界需要は、各国における保険適用に伴い、5年後には300~400kg/年の規模に達する見込みですが、現在商業生産しているのは米国とイスラエルの数社のみであり、低価格で安定した供給が望まれています。本技術による18O標識水は、医薬品製造品質管理規範(GMP)に準じた製造設備、品質管理のもと生産され、高濃度で安定供給でき、また現在の10倍程度の量産にも対応可能であるため、PET診断薬18FDGの原料として、医療分野での利用が期待されます。

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This page updated on August 24, 2004

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