平成18年度研究領域評価結果について > 研究領域 「生体と制御」 事後評価

研究領域 「生体と制御」 事後評価

1.総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野への寄与、本領域の意義、等)

 よく練られた選考基準、選考方法により、優れた研究者が公平に選ばれるよう工夫がなされ、細菌学、ウイルス学、寄生虫学、免疫学の各分野からバランスをよく考えて選ばれていた。領域会議を専門分野が異なる研究者同士の切磋琢磨の場とするとともに共同研究への発展を目指した点で通常は接点が少ない他分野の研究者同士の交流が促進されたことは評価される。22名中、17名の研究者がさきがけ研究の期間中あるいは終了後に教授あるいは独立のポストに昇進していることから、多くの研究者が期待通りかあるいはそれ以上の業績を挙げたと考えられる。このことは、採択後に多くの研究者が特定領域研究、基盤研究などの科学研究費補助金やその他の研究費を獲得していることからもうかがえる。本さきがけ領域は研究者人口の減少により研究そのものの推進が危ぶまれた状態から再び活気ある感染症研究を復興することに大きな貢献をし、分野全体の底上げに寄与したと思われる。感染症や免疫疾患の優れた若手研究者を集めた本研究領域は、単に論文として発表された研究業績に止まらず、異なる分野の研究者ならびにアドバイザーが集まって互いに学びあい、刺激しあって研究を進めるという副次的な意味も大いにあったと考えられる。同じ試みは科学研究費補助金の特定領域研究でも行われており、今後ともわが国の教育・研究において大いに推進されるべきことであろう。
 辛口のコメントを入れるならば、さきがけ研究者の独立性が必ずしも明らかでない場合が散見された点は気になった。今後検討されなければならない課題であろう。また、選考に当たってはアドバイザーに近い関係者の採択のやり方も今後検討すべきであろう。

2.研究課題の選考(選考方針、領域アドバイザーの構成、採択された課題の構成と適切さ、等)

 研究総括があげた目標が広く大きい分だけ、ともするとウイルス学・細菌学・寄生虫学・免疫学等に関係した疾患であれば、何でも良いという印象がある。しかし、選考についてはあらかじめよく練られた選考基準、選考方法により、優れた研究者が公平に選ばれるよう工夫がなされていた。書類選考において1課題3名の委員が査読していたことは公正性の点で良かった。領域アドバイザーも本研究領域に関連のある細菌学、ウイルス学、寄生虫学、免疫学の各分野からバランスよく、視野の広い一流の研究者が8名選ばれた。採択された課題は3期合計22名中、細菌学6名、ウイルス学4名(内、プリオン1名を含む)、寄生虫学3名、免疫学9名であり、ここでも各分野からバランスを考えて選ばれた。優れた提案の多かった免疫学分野の採択率が高くなったようであるが、この点は我が国の現況をみる時に致し方ない事かもしれない。今後の検討課題であろう。総合すれば採択された課題の内容は当該分野の進展に貢献する可能性が高い優れたものであったと思われる。ただし、アドバイザーの研究室のメンバーないし関係者が数名選ばれているが、研究者の採択や評価の際には関係するアドバイザーは席を外すという申し合わせがあるにしても、透明性の観点からはアドバイザーに近い研究者は含まれないほうが望ましい。この点は検討の必要がある。

3.研究領域のマネジメント(研究領域運営の方針、研究進捗状況の把握と評価、研究費の配分、等)

 研究総括が、採択年度内に各研究者の所属機関を訪問し、研究環境の調査と研究進捗状況の把握を行うとともに、所属機関関係者にさきがけ研究への協力を依頼するという努力がなされた。また、年2回を基本として領域会議を開催し、この領域会議には毎回ほとんど全員のアドバイザーが出席したようである。領域会議では専門分野が異なる研究者同士の切磋琢磨の場とするとともに共同研究への発展を目指した。研究費の配分についても、領域会議などでの研究進捗状況の把握と評価に基づいてなされたことに一定の評価を与えられる。ただし、総括やアドバイザーが具体的にどんな助言をし、その結果ある課題がそれを機に大きく進展したか、あるいは研究者間で共同研究などが実施されたか、などが見えにくい。報告書には具体的に記載しておくべきであった。年2回の領域会議というのは頻繁すぎるきらいがあり、その場が毎回評価の場になるようでは萎縮する研究者も出るのではないかと危惧する意見もあった。評価は最終的にどのような成果が挙がったかで評価すべきであり、その意味では終了後も2年間くらいは論文発表などの成果発表を追跡すべきであろう。さきがけの研究費の配分額は他の研究費と比べてもかなりの額であり、配分に関しては研究の内容・進捗状況によってメリハリを付けたと記述しているが、具体的に追加配分したのか、次年度予算で考慮したのかが分かりにくい。何か特筆できるようなマネジメントがあったのであれば記載すべきであろう。

4.研究成果(①研究領域の中で生み出された特筆すべき成果、②科学技術及び社会・経 済・国民生活等に対する貢献、③問題点、等)

 かなりの研究者が当該分野においてトップレベルの業績を挙げたと判断される。採択段階での厳しい審査(競争率約15倍)を通るためには、優れた成果を期待させるある程度のデータが既にあることが必要であったと考えられ、これらの業績は当然かもしれない。採択時の審査が適切に行われたことを反映しているということもできる。細菌学分野の研究者はほぼ全員それぞれの細菌や細菌毒素の研究で病原性発現や治療につながるインパクトの高い研究を展開したと思われる。ウイルス学、寄生虫学分野でも、川口、野崎研究者をはじめ優れた成果が挙がっている。免疫学分野では、高柳、牟田、吉田、荒瀬、福井研究者はさきがけ研究の期間中にそれぞれの研究分野で世界をリードする優れた成果を挙げたと思われる。本研究領域は、感染症や免疫・アレルギー疾患の病因の解明とそれに基づく新しい予防法、治療法の探索を目指したものであった。感染症の分野は一時期研究者が極端に減少した時期があったが、本領域においては将来を期待させる成果が複数見られたことは重要な点である。しかし、他の研究分野と比べた場合、他の研究分野の成果を凌駕できるほど特筆できるものはそれほど多くはないが、この点は仕方のないことであろう。得られた研究成果の社会還元云々については「さきがけ」という領域だけに、多くは期待できないが、高柳らの成果は応用に向けインパクトのあるものも見られる。また、実用可能なワクチンや薬剤の開発は数年で達成できることではなく、地道な基礎研究の積み重ねが不可欠である。本さきがけ研究で行われた多くの研究は、予防法、治療法を開発するための基盤となるものであり、高く評価できる。
 ポスドク参加型の本領域では研究者が独立して研究を進めることが期待されるのに対し、必ずしも独立性が明らかでない場合が散見された点は気になった。例えば、発表された論文リスト中に自分が最終著者の論文はおろか、第一著者の論文もない場合が複数あるが、これはさきがけ本来の趣旨から外れるのではないか。さきがけ研究者を受け入れた研究室の問題なのか、それともアドバイザーが適切に研究の遂行についてかかわりを持たなかったからなのか、検証が必要である。また、大きなグループの中にいる研究者に関してはともすると過大な評価になる可能性があり、この点は選考段階も含めて検証が必要であろう。

5.その他

 評価者が現場を見ていない立場からのコメントであるが、本領域の目指すところに向かって研究を進めて行く過程で、研究総括やアドバイザーが各担当研究者へどのような助言や討論をどの程度行ってきたかが見えにくいという意見もあった。
 今後の問題として、研究者の独立性をどのように考えるか、きちんとした議論が必要であろう。また、大きなグループの中にいる研究者に関してはともすると過大な評価になる可能性があり、この点は選考においても評価においても考慮する必要があろう。
■ 戻る ■
This page updated on July 25, 2007
Copyright©2007 Japan Science and Technology Agency.