ポイント
- 優れた電気的・力学的性質を持つグラフェンを筒状に巻いた形状のグラフェンナノスクロール(GNS)が、エネルギー・デバイス・機械応用の観点から近年注目を集めている。
- 本研究では、グラフェンの引っ張りによるひずみを利用してGNSを高密度に向きをそろえて作製する新たな作製法の開発に成功するとともに、GNSの物性に大きな影響を与える巻き方(カイラリティー)の制御も実現した。
- GNSはナノチューブとは違って端が閉じていないことから、ガス貯蔵などのエネルギー応用から高電流配線・メモリーといったデバイス応用まで幅広い分野への波及効果が期待される。
炭素からなるカーボンナノチューブ(CNT)やシート状のグラフェンはともに多くの優れた特性を示すことが知られています。グラフェンを筒状に巻いた「グラフェンナノスクロール(GNS)」は、CNTと同じく1次元構造を持ちますが、CNTとは違って緩くロールしており、その層間に分子やガスなどを貯蔵することも可能で、CNTよりも電流を多く流すこともできることから注目を集めています。また、巻き方(カイラリティー)によって物性が変化することから、学術的にも興味深い対象です。
これまで基板上でGNSを高密度に並べて作製する方法はなく、液滴の浸透力を使って数本程度のGNSを作って、電気特性や巻き方による物性の違いを調べていました。一方、溶液中で作る方法では、グラフェンシートの巻き方が十分ではない上、複数のGNSが絡み合った構造をとってしまいます。このように、GNSを作る手法は十分ではなく、新たな作製手法の開発が求められていました。
九州大学 大学院総合理工学研究院の吾郷 浩樹 主幹教授、パブロ・ソリス=フェルナンデス 特任准教授、光原 昌寿 教授、同 大学院工学研究院の髙橋 厚史 教授、東京理科大学の山本 貴博 教授、大阪大学 産業科学研究所の末永 和知 教授、スン・ハイミン 特任講師、産業技術総合研究所の林 永昌 主任研究員、東京工芸大学の松本 里香 教授らの研究グループは、グラフェンに引っ張りひずみを与えることで、きれいに配列したGNSを高密度に作製する方法を見いだし、GNSが電気配線やメモリーとして動作すること、また分子を層間に貯蔵できることを明らかにしました。さらに、ひずみを与える方向でカイラリティーも制御できることを実証しました。今回の発見はカイラリティーを制御した1次元グラフェン構造という学術的に興味深い新規ナノ材料を提供するだけでなく、エネルギー変換やバッテリー、配線やメモリー材料、強化材料など幅広い応用に役立つことが期待されます。
本研究成果は、2026年10月21日(現地時間)付で、英国の科学誌「Nature Communications」に掲載されました。
<本研究を支援したJSTの制度>
戦略的創造研究推進事業 CREST
次世代エッジAI半導体研究開発事業
<論文タイトル>
- “Strain-engineered fabrication of high-density aligned graphene-based nanoscrolls via UV-tunable adhesive tapes”
- DOI:10.1038/s41467-026-78264-8
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.74MB)
※本件に関する問い合わせ先はプレスリリース資料(PDF)をご参照ください。