ポイント
- 近赤外光線免疫療法(NIR-PIT)は、がん細胞を狙い撃ちする画期的な治療法として日本でも条件付き承認されていますが、「腫瘍への薬剤の到達の正確な評価」や「標的がないがん細胞には効きづらい」という壁がありました。この壁を、最先端の「ナノ粒子」を合体させることで突破できました。
- 磁気共鳴画像(MRI)で追跡可能ながん分子光標的治療の新たなプラットフォーム「NIR-PICT3」の開発に成功しました。
- 抗体と光感受性物質に超常磁性酸化鉄極小ナノ粒子を結合させることで、従来のNIR-PITに光熱療法(PTT)と化学動力学的療法(CDT)の相乗効果を統合することに成功しました。
- NIR-PICT3を用いた治療において、近赤外光を照射するサイクルごとに発熱の効率が上昇する、光温熱増強効果を新発見しました。
- 腫瘍には標的抗原発現が一定ではない、腫瘍の異種性が存在します。NIR-PICT3では、非標的の腫瘍細胞にも治療効果を発揮する光温熱バイスタンダー作用があることを新発見しました。
- 鉄ナノ粒子はすでに臨床で肝臓がん、肝転移腫瘍のMRI画像検査に認可されており、人への臨床応用が容易と考えられます。
- 本プラットフォームは、使用する抗体を変更することで、さまざまながん種への応用が可能であり、治療とMRIによる追跡を両立できると考えられます。
名古屋大学 大学院医学系研究科 高等研究院・医工連携ユニット(JST 創発的研究支援事業 1期生)の佐藤 和秀 特任講師(責任著者)、同大学 大学院工学研究科 化学システム工学専攻 先進化学工学システムの井藤 彰 教授、同大学 大学院医学系研究科 総合保健学専攻 オミックス医療科学の佐藤 光夫 教授、JSR株式会社の嶋田 遵生子 主任研究員らの研究グループは、抗体医薬に極小サイズの鉄ナノ粒子を付加する新しいナノ光分子標的治療プラットフォームの開発に成功しました。
近年、抗体医薬に薬剤を付加した抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugates;ADC)が、がん分子標的治療の1つとして、さまざまながん種に応用されています。その中でも、近赤外光に応答して新規の細胞死機序である“Photochemosis”を誘導する近赤外光線免疫療法(Near Infrared Photoimmunotherapy;NIR-PIT)は、新しい概念のがん分子光標的治療として注目されています。NIR-PITは2020年に世界に先駆けて日本で承認され、光照射によって治療効果を制御できる光ADCとしての発展が期待されています。一方、ADCをはじめとする抗体標的治療では、腫瘍内における標的抗原発現の不均一性、すなわち腫瘍内不均一性(tumor heterogeneity)が治療効果を制限する重要な課題の1つとなっています。
今回、次世代型の光治療プラットフォームとして、抗体医薬に極小サイズの鉄ナノ粒子を付加することで、MRIによる標的腫瘍の描出を可能とし、NIR-PITの効果とともに、690nm(ナノメートル)の近赤外光による光温熱効果(Photothermal Therapy;PTT)、化学動力学治療(Chemodynamic Therapy;CDT)、フェロトーシス(ferroptosis)の誘導の複合的・集学的な効果を同時発現することを発見しNIR-PICT3(Near Infrared Photoimmuno-Chemodynamic Thermal Targeting Therapy)と名付けました。加えて、NIR-PICT3は、光照射を繰り返すことで標的温熱効果が増強し、さらには非標的の腫瘍へも効果を及ぼす光温熱バイスタンダー効果を発出することを発見し、その効果発出メカニズムを明らかにしました。
本研究成果は、2026年10月21日(現地時間)付で、科学誌「Journal of Nanobiotechnology」に掲載されました。
<本研究を支援したJSTの制度>
創発的研究支援事業
<論文タイトル>
- “Synergistic Nanotheranostic Platform for Fluorescence/Magnetic Resonance Bimodal Imaging-Guided Near Infrared Photoimmuno-Chemodynamic Thermal Targeting Therapy”
- DOI:10.1186/s12951-026-05148-w
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(949KB)
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