信州大学,科学技術振興機構(JST)

2026(令和8)年8月26日

信州大学
科学技術振興機構(JST)

電池材料の表面をフッ素で変え、内部構造と界面反応を同時に安定化

~高容量リチウムイオン電池の長寿命化につながる新たな材料設計指針~

ポイント

Niリッチ層状酸化物(NCM811)の表面近傍にフッ素を適切に配置(フッ素化)することで、結晶構造から電極-電解液界面、さらには負極側まで連鎖的に安定化し、Niリッチ正極の高性能化・長寿命化につながる新たな材料設計指針を示しました。

信州大学 アクア・リジェネレーション機構の是津 信行 教授らとフランス・モンペリエ大学のThe Institute Charles Gerhardt Montpellier(ICGM)のProf. Louvain Nicolasらの国際共同研究グループは、高容量リチウムイオン電池の正極材料として期待されるNiリッチ層状酸化物LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(リチウム‐ニッケル‐コバルト‐マンガン酸化物、NCM811)について、粒子表面近傍にフッ素を導入することで、リチウムイオン電池の充放電反応時に起こる結晶構造の変化と電解液との界面反応を同時に安定化できることを明らかにしました。

ニッケル(Ni)を多く含むNCM811は、高いエネルギー密度を実現できる有望な正極材料である一方、充放電、特に高い充電状態において結晶格子が大きく収縮するとともに、正極表面で電解液の分解反応が進行することが、長寿命化を妨げる大きな課題でした。これまでフッ素を導入すると電池性能が改善することは報告されていましたが、フッ素が結晶内部の構造変化と電極-電解液界面の反応をどのように関連付けて制御するのか、その全体像は十分に理解されていませんでした。

今回、研究グループはXeF2(フッ化キセノン)を用いた固体-気体反応によって、NCM811の層状結晶構造を維持しながら、粒子表面近傍にフッ素が濃化した領域を形成しました。X線回折、X線光電子分光、電気化学測定、オペランド赤外分光に加えて、第一原理計算およびニューラルネットワークポテンシャル(NNP)による原子・分子シミュレーションを組み合わせ、結晶構造から表面・界面、電解液分子に至るまで、フッ素化の効果を多階層にわたって解析しました。

その結果、フッ素化によって高電圧充電時の結晶格子の収縮が緩和され、Niリッチ正極の代表的な劣化要因であるH2→H3相転移に伴う急激な構造変化が抑制されることが分かりました。一方、電極表面では、フッ素化によって電解液溶媒であるDMC(ジメチルカーボネート)の吸着状態が選択的に変化し、電解液の過剰な分解と正極界面被膜(CEI)の成長が抑制されることを明らかにしました。さらに、この正極側の安定化効果は正極だけにとどまらず、電解液を介して負極側にも波及し、正極-負極間の化学的クロストークを抑制しました。黒鉛負極と組み合わせたフルセルでは、100サイクル後の容量維持率が未処理NCM811の77%からフッ素化NCM811では93%に向上しました。

本成果は、フッ素化を単なる「表面保護」ではなく、元素をどこに、どのように配置するかによって、結晶内部から固液界面、さらには電池全体の反応までを一体的に制御する材料設計手法として位置付けるものです。高エネルギー密度・長寿命リチウムイオン電池に向けた新しい材料設計指針になることが期待されます。

本研究成果は、2026年8月20日(現地時間)付で、科学誌「Communications Materials」に掲載されました。

科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR21B3)、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 国際共同研究加速基金(海外連携研究)(JP23KK0104)

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Unified structural and interfacial stabilization of Ni-rich NCM811 via surface-enriched fluorination”
DOI:10.1038/s43246-026-01330-7

<お問い合わせ>

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