東京大学,科学技術振興機構(JST)

2026(令和8)年8月24日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

量子もつれが決める「熱平衡らしさ」

~取り出せる仕事に基づいて量子多体状態を分類~

ポイント

東京大学 大学院工学系研究科の矢田 季寛 大学院生(研究当時、現・理化学研究所 日本学術振興会特別研究員)、沙川 貴大 教授、同大学 素粒子物理国際研究センターの吉岡 信行 准教授から成る研究グループは、量子多体系の状態がどのような条件で熱平衡状態と同じ性質を示すのか、すなわちその「熱平衡らしさ」が何によって決まるのかを、「局所操作と古典通信(LOCC, Local Operations and Classical Communication)」で取り出せる仕事に基づき、理論的に明らかにしました。

量子多体系の典型的な状態は、系全体としては熱平衡状態とは大きく異なるにもかかわらず、各粒子を個別に操作・観測するだけでは、熱平衡状態とほとんど見分けがつかないことが知られています。しかし、各粒子の測定結果を互いに伝え合い、その結果に応じた操作が可能となるLOCCの下でも、この同等性が保たれるかは明らかになっていませんでした。

そこで本研究では、LOCCによって量子状態から取り出せる仕事を定式化し、熱平衡状態と同じ性質を示すかどうかが、状態に含まれる多体量子もつれによって決まることを示しました。特に、典型的な量子多体系の状態には、強く複雑な多体量子もつれが存在するために、LOCCを用いても系の大きさに比例する仕事を取り出せません。つまりこのような状態は、仕事の取り出しの観点からは、熱平衡状態と同様の性質を示すことになります。

その一方で、局所操作だけでは熱平衡状態と見分けがつかない状態であっても、量子もつれが弱くその構造が比較的単純な場合には、古典通信を組み合わせることで系の大きさに比例する仕事を取り出せることも示しました。

本成果は、量子多体状態の熱的な性質を明らかにするとともに、量子多体系に対する精密な操作を活用した新たな量子熱機関の設計などにつながることが期待されます。

本研究成果は、2026年8月21日(米国東部夏時間)付で、科学雑誌「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載されました。

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO(課題番号:JPMJER2302)、同事業 CREST(課題番号:JPMJCR20C1)、JSPS 科研費 特別研究員奨励費(課題番号:JP23KJ0672、JP26KJ0403)の支援により実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Testing the equivalence to thermal states via extractable work under local operations and classical communication”
DOI:10.1103/zsb1-gx7f

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