科学技術振興機構(JST),東京大学

2026(令和8)年8月20日

科学技術振興機構(JST)
東京大学

「極小の二重スリット」で隣り合う原子の揺れを観測

~ヤング実験の1000万分の1、半導体の放熱設計貢献に期待~

ポイント

スマートフォンやパソコンなどに使われる半導体は、高性能化や小型化が進むにつれて発熱の効率的な制御が大きな課題となっています。熱の伝わり方は物質を構成する原子の振動によって決まりますが、隣り合う原子同士がどのように協調して振動しているかを直接原子スケールで調べることは容易ではありません。

JST 戦略的創造研究推進事業 ERATOにおいて、東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構の柴田 直哉 機構長・教授、田畑 浩大 東京大学特別研究員(日本学術振興会(JSPS) 特別研究員)、関 岳人 准教授、石川 亮 特任准教授の研究グループは、隣り合う原子を「2つの隙間」に見立てた極小の二重スリット実験に成功し、電子が作るしま模様から原子の揺れを読み取ることが可能であることを示しました。

二重スリット実験は、2つの細い隙間に波を通すと、波が重なり合って明暗のしま模様ができる現象を利用した実験です。19世紀初めに英国の物理学者 トーマス・ヤングが光を用いて行って以来、波の性質(波動性)を示す最も基本的な実験として知られています(ヤングの実験)。この実験を物質内部の原子スケールにまで小さくできれば、原子の並びや動きを単一の原子結合レベルで直接調べられると期待されますが、そのような原子スケールの二重スリット実験は、これまで実現されていませんでした。

本研究グループは、走査透過電子顕微鏡(STEM)により細く絞った電子線を、136pm(ピコメートル:1pmは1兆分の1m)だけ離れて隣り合う2本のシリコン原子列の間に入射した際に、この原子対が「二重スリット」のように振る舞う現象を利用することで、電子線による原子スケールの二重スリット干渉を観測することに成功しました。これはヤングの実験を約7桁(1000万分の1)小さくしたことに相当します。

さらに、しま模様の見え方を詳しく調べることで、隣り合う原子がどれくらい同じ向きに揺れているかを読み取れることを明らかにしました。これは、原子同士の結び付きの強さや、物質の中で熱がどのように伝わるかを調べるための新しい方法です。

本手法は、原子同士の結合の硬さや、熱の伝わり方を左右するフォノン(格子振動)の情報を、一つ一つの原子結合に着目して調べる新しい計測技術です。今後、この方法を半導体材料の研究開発に応用することで、熱がたまりやすい場所や流れにくい場所を原子レベルで調べられる可能性があります。将来的には、半導体デバイスの放熱設計や、熱を効率よく利用する材料の開発への貢献が期待されます。

本研究は、ウィーン大学 Toma Susi(トマ・スシ) 准教授と共同で行いました。

本研究成果は、2026年8月19日(現地時間)に英国の学術誌「Nature」のオンライン版で公開されました。

本成果は、以下の支援によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)

「柴田超原子分解能電子顕微鏡プロジェクト」(JPMJER2202)
研究総括:柴田 直哉(東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構 機構長・教授)
2022年10月~2028年3月

本プロジェクトでは、極低温から高温までの温度領域において原子スケールの構造および電磁場分布を同時に観察することを実現し、物質・生命機能の起源を直接「観る」ことができる、従来の原子分解能電子顕微鏡を超えた「超」原子分解能電子顕微鏡とも呼ぶべき新たな計測手法を構築することを目的としています。

その他、JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)(課題番号:JPMJPR21AA)、創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR2033、JPMJFR245V)、JSPS 科学研究費助成事業(課題番号:JP25H00793、JP24K01294)、二国間交流事業(JRP-LEAD with UKRI、課題番号:JPJSJRP20211703)、特別研究員奨励費(課題番号:JP25KJ1083)による支援を受けて行われました。

また本研究は、東京大学 大学院工学系研究科「次世代電子顕微鏡法社会連携講座」、東京大学 日本電子産学連携室、および文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ事業(東京大学 マテリアル先端リサーチインフラ微細構造解析部門)の支援を受けて実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Atomic-scale double-slit interferometry with a focused electron probe”
DOI:10.1038/s41586-026-10914-9

<お問い合わせ>

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