ポイント
- 量子材料として注目されているシート状の二セレン化ニオブ(NbSe2)結晶の隙間に有機分子を挟み込んだ材料において、新しい状態「協奏的超構造(CSS)」を世界で初めて発見しました。この状態では、挟まれた分子の整列と、NbSe2側の長周期な変形が同時に現れます。
- CSSへの相転移が分子集団のゆっくりとした動きに律速されることに着目し、冷却の速さを変えるだけで整列した状態と、無秩序のまま凍りついた状態を作り分けることに成功しました。
- 有機分子の持つソフトな性質を量子材料に組み込む本アプローチは、温度操作で材料の状態と機能を切り替える新しいハイブリッド界面の設計につながると期待されます。
東京大学 生産技術研究所の金澤 直也 准教授、松岡 秀樹 特任助教、同大学 大学院工学系研究科の植田 大雅 大学院生、同大学 大学院新領域創成科学研究科の鬼頭 俊介 助教、有馬 孝尚 教授、高輝度光科学研究センター(JASRI)の中村 唯我 研究員らの研究グループは、無機層状結晶の層間に有機分子を挿入した「分子インターカレーション超格子」において、分子の整列と無機結晶の長周期な変形が、手を取りあうように同時に現れる新しい状態「協奏的超構造(CSS)」を発見しました。
分子インターカレーション材料の研究には長い歴史がありますが、これまでは個々の分子の単体としての性質に注目した研究が大半を占めてきました。本研究はさらに踏み込み、分子が集団として整列する相転移が存在すること、そして、同時に結晶側にモアレ模様のような長周期構造が生み出されることを実証し、分子が結晶を動かす能動的な役割を担い得ることを示しました。
さらにこの相転移は、一般的な無機固体の電子的な相転移と異なり、分子がゆっくり並ぶという遅い動きに律速されます。そのため、冷却速度を変えるだけで、低温で安定な有機分子が規則的に並んだ状態と、高温で現れる有機分子が無秩序な状態を低温で凍結させた状態を選んで作り出せます。本成果は、ソフトマター(柔らかい物質)の物理と量子材料の物理を橋渡しするものであり、無機材料と有機材料を融合(ハイブリッド化)させたハイブリッド界面の新しい設計指針を与えます。
本研究成果は、2026年8月5日(米国東部夏時間)付で、科学誌「Science Advances」に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業「カイラルイオントロニクスによる電磁交差物性創発(課題番号:JPMJFR221V)」、「新世代コンピューティング素子のためのスキルミオン物質基盤創成(課題番号:JPMJFR2038)」、「第4世代放射光を用いた電子軌道観測の新展開(課題番号:JPMJFR2362)」、同 戦略的創造研究推進事業 CREST「Giant CISS物質: 界面陽電子・電子の全運動量制御(課題番号:JPMJCR23O3)」、同 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「非対称分子によるファンデルワールス物質の層間設計と二次元量子相の開拓(課題番号:JPMJPR25H9)」、「極性二次元物質とそのヘテロ構造におけるバルク光起電力効果(課題番号:JPMJPR20L5)」、「顕微分光による二次元物質デバイスの物性開拓(課題番号:JPMJPR24H8)」、日本学術振興会(JSPS) 科研費「2.5次元構造の分析技術開発(課題番号:JP21H05235)」、「ファンデルワールス超薄膜・界面設計に基づく創発二次元物性開拓(課題番号:JP21K13888)」、「極低温高磁場下in-situ顕微分光装置の構築と電界誘起超伝導のラマン分光測定(課題番号:JP22K18317)」、「磁性伝導体における新しい創発電磁誘導(課題番号:JP23H05431)」、「スピン偏極陽電子ビームを基軸とする新しいサイエンスの展開(課題番号:JP23H05462)」、「ありふれた元素の化合物に潜んだトポロジカル表面新物質相の開拓(課題番号:JP24H00417)」、「インターカレーション技術を用いた磁性の制御と新規開拓(課題番号:JP24H01212)」、「ツイストvan der Waals積層を用いたWTe2の対称性制御と新奇物性開拓(課題番号:JP24K01293)」、「ファンデルワールス層状物質へのキラル分子挿入による対称性リプログラミング(課題番号:JP25H02030)」、「キラルファンデルワールス超格子:キメラ準粒子創出のためのプラットフォームの構築(課題番号:JP25H02141)」、「対称心のない欠損スピネル化合物における分子多極子軌道の直接観測(課題番号:JP24H01644)」、「3次元X線散漫散乱解析手法の開発とNb酸化物における短距離軌道秩序状態の解明(課題番号:JP24K17006)」、「スピン偏極したバンド構造を有する原子層物質の創製と新現象の探索(課題番号:JP24K01285)」、「接合界面電子状態制御による新規トポロジカル磁気粒子の創出(課題番号:JP23H04017)」、「トポロジカルスピン粒子系における非線形ホール効果の観測とスピントロニクス応用(課題番号:JP25H02126)」、「表面非対称電子軌道の制御による非相反伝導特性の最大化(課題番号:JP24H01652)」、旭硝子財団、村田学術振興・教育財団、三菱財団、住友財団、田中貴金属記念財団の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(833KB)
<論文タイトル>
- “Emergent Cooperative Superstructures via Order–Disorder Kinetics in Molecular Intercalation Superlattices”
- DOI:10.1126/sciadv.aeg4785
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