ポイント
- 次世代の超省電力半導体として期待される2次元物質(MoS2)を、これまで必要だった別の基板へ貼り替える「転写工程」無く、成長させたサファイア基板上で直接トランジスタ動作させることに成功。
- 本来のトランジスタのオン・オフ動作を示さなかった最大の原因は、基板界面に残存した硫酸基や水分子による“隠れた電子ドーピング”であることを解明。微細加工後にガス熱処理を行う独自の「完全ドライ界面制御」によりこのボトルネックを根本から解消。
- 高品質なサファイア基板上単結晶MoS2を「ウエハー」としてそのまま直接利用する道を開いた本成果は、2次元半導体の活用基盤構築における極めて重要なマイルストーンです。
東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻の長汐 晃輔 教授らの研究グループは、物質・材料研究機構(NIMS)および名古屋大学との共同研究により、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)でサファイア基板上に成長した単結晶MoS2(二硫化モリブデン)において、本来のトランジスタ特性(電流の明確なオン・オフ動作)が出ないという性能低下の要因が、界面に残存する硫酸基・水分子由来種による“隠れた電子ドーピング”であることを解明しました。
本研究では、この問題を解決するため、デバイス加工(パターン形成)後にH2/Arアニールを行う「完全ドライ界面制御」プロセスを構築しました。これにより、原子層の隙間から界面不純物を効果的に脱離させ、従来不可欠とされていた他基板への「転写工程」を介さずに、直接成長ウエハー上での良好なトランジスタ動作を実証しました。
本成果は、最大のボトルネックであった清浄性維持が困難な転写工程を不要とし、高品質なサファイア基板上単結晶MoS2を「ウエハー」として直接利用する道を開くものです。これは本CRESTプロジェクトの戦略目標である「新たな半導体デバイス構造に向けた低次元マテリアルの活用基盤技術」における重要なマイルストーンであり、日本が注力するAI半導体や次世代低消費電力ロジックデバイスの開発を大きく加速する基盤技術として期待されます。
本研究成果は、2026年7月5日(現地時間)付で「Advanced Materials」に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST(課題番号:JPMJCR24A3)、同 次世代エッジAI半導体研究開発事業(課題番号:JPMJES2531)、同 未来社会創造事業(課題番号:JPMJMI22E4)、日本学術振興会(JSPS) 科研費(課題番号:JP21H05232、JP21H05237、JP22H04957、JP25K07845)、文部科学省 ナノテクノロジープラットフォーム(課題番号:JPMXP09F23UT1041)、文部科学省 マテリアル先端リサーチインフラ(課題番号:JPMXP1224NM0056、JPMXP1225NM5358)の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(537KB)
<論文タイトル>
- “MOCVD-Grown MoS2 Wafers as a Transfer-Free Platform for Top-Gate Devices via Dry Interface Engineering”
- DOI:10.1002/adma.73931
<お問い合わせ>
-
<JST事業に関すること>
金山 晋司(カナヤマ シンジ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K's五番町
Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066
E-mail:crestjst.go.jp
-
<報道に関すること>
東京大学 大学院工学系研究科 広報室
Tel:03-5841-0235
E-mail:kouhoupr.t.u-tokyo.ac.jp
名古屋大学 総務部 広報課
Tel:052-558-9735
E-mail:nu_researcht.mail.nagoya-u.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3 サイエンスプラザ
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:jstkohojst.go.jp