ポイント
- 酵素の活性を可視化する「蛍光プローブ」を、カラムクロマトグラフィーなどの精製過程を経ずに自動合成できる仕組みを構築した。
- 100種類以上の1分子酵素活性計測用蛍光プローブを合成し、これまで高感度な活性計測が困難であった酵素の活性計測系の開発を可能とした。
- 酵素活性を網羅的に解析するenzymomics(酵素機能のオミクス解析)法により、肝障害に関わる血液中の酵素活性異常の様子を明らかにした。
東京大学 大学院薬学系研究科の箕田 麻弥乃 学術専門職員(研究当時)、小松 徹 准教授、浦野 泰照 教授らの研究グループは、酵素の活性を可視化するケミカルプローブの一種である「蛍光プローブ」を、カラムクロマトグラフィーなどの精製過程を経ずに自動合成できる仕組みを構築し、これを用いた新たな酵素活性解析の方法論を提案しました。
特定の酵素によって代謝され、蛍光シグナルの増大によって活性を検出する「蛍光プローブ」は、酵素の生きた機能を直接的に「見る」ことを可能とする有用な研究ツールですが、生体内に存在する多様な酵素を網羅的に解析するためには高い機能性を有する多様な蛍光プローブを効率的に合成することが必要とされています。特に、1分子酵素活性計測などの高精度な活性計測系にこれを用いるためには、極めて高い化学純度を有するプローブを合成することが求められ、通常は1つずつのプローブに対してカラムクロマトグラフィーなどの方法論を用いた精製を行うことが必要となるため、合成の効率化は困難と考えられてきました。
これに対し本研究では、多彩な化学反応を使用可能な「液相合成」と、精製を簡便化できる「固相合成」の利点を融合したSynthesis based on Covalent Capture and Release(SCCR:共有結合性の捕捉・切り出しに基づく合成)戦略を開発しました。本手法では、独自に開発した固相捕捉ハンドル付きの保護基を用いることで、液相合成の任意のステップで目的物のみを選択的に固相上に捕捉して固相合成へと移行する合成スキームの構築を可能とし、ペプチド全自動合成機を用いて、高純度のプローブをカラムクロマトグラフィーによる精製を経ずに合成することを実現しました。これにより、100種類以上のプローブからなる1分子酵素活性計測系ライブラリーを短期間で構築することが可能となり、酵素の機能解析用の新規蛍光プローブの創出や新たな血液バイオマーカー候補の発見へとつながる成果が得られました。本手法は、遺伝子やたんぱく質量だけでは捉えきれない、疾患に伴う微細なたんぱく質機能(proteoform)の変化を包括的に描き出す新たなオミクス階層(enzymomics;酵素機能のオミクス解析)の樹立に大きく貢献することが期待されるものです。
本成果は、2026年6月29日(現地時間)付で「ACS Central Science」誌に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業「Proteoform レベルのタンパク質機能解析に基づく疾患の理解の深化(課題番号:JPMJFR230B)」、日本医療研究開発機構(AMED) 革新的先端研究開発支援事業 ステップタイプ(FORCE)「Proteoform レベルの酵素機能網羅的解析に基づく疾患診断技術の開発」、次世代がん医療加速化研究事業「プロテアーゼ群を包括する1分子酵素活性バイオマーカーを利用した膵臓がん早期診断技術の開発」、日本学術振興会(JSPS) 科研費「基盤研究(B)(課題番号:JP19H02846、JP22H02217、JP25K01911)」、科研費「学術変革領域研究(A)(課題番号:JP21A303)」、内藤記念科学振興財団、持田記念医学薬学振興財団、中外創薬科学財団、MSD生命科学財団、篷庵社などの支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(727KB)
<論文タイトル>
- “Synthesis Based on Covalent Capture and Release Enables Purification-free Fluorogenic Probe Libraries for Single-Molecule Protease Activity Profiling”
- DOI:10.1021/acscentsci.6c00783
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