ポイント
- 放射光などの先端科学計測では、大量の学習データ取得が難しく、AI解析の導入が課題となっていた。
- 本研究では、事前に学習データを用意する必要のないAI解析法を開発し、短時間で測定した1枚の軟X線ARPES画像から、電子のバンド構造を明瞭に可視化できることを実証した。
- 本成果は、未知現象を対象とする先端科学計測において、正解データを事前に用意できないという課題を克服しうる新たなAI解析基盤技術として期待される。
高輝度光科学研究センター(JASRI)の横山 優一 研究員、山神 光平 研究員、電気通信大学の住谷 祐太 氏(研究当時:博士前期課程学生)、庄野 逸 教授、熊本大学の水牧 仁一朗 教授らの研究グループは、事前学習データを用いず、短時間の科学計測データから信号成分を推定する人工知能(AI)による解析法を開発しました。
本手法は、深層ニューラルネットワークの構造そのものが持つ性質である深層事前分布(Deep Prior)を利用します。ネットワークの学習は、まず試料本来の信号パターンを再現し、その後、測定装置などに由来する周期的なノイズ(アーティファクト)やランダムノイズまで再現する方向へ進みます。適切なタイミングで学習を止めることで、不要なノイズ・アーティファクト成分を抑制し、信号成分を抽出できます。
研究グループは、このAI解析法を大型放射光施設SPring-8 BL25SUの軟X線角度分解光電子分光(ARPES)に適用し、ランダムノイズと格子状アーティファクトを含む短時間の測定データからでも、バンド構造を明瞭に可視化できることを示しました。さらに、学習を止めるタイミングを自動決定する仕組みを導入し、客観性と再現性を備えたAI解析法として確立しました。
本成果は、放射光や中性子などの先端科学計測において、AI for Scienceを実験現場へ導入するための新たな解析基盤技術として発展が期待されます。
今回の研究成果は、英国物理学会が発行する国際科学雑誌「Machine Learning: Science and Technology」に、2026年6月12日(現地時間)に掲載されました。
本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR25JA)およびJSPS 科研費 若手研究(JP25K17944)の支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.56MB)
<論文タイトル>
- “Deep prior-based denoising for state-of-the-art scientific imaging and metrology”
- DOI:10.1088/2632-2153/ae67cf
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