ポイント
- 花粉の中の細胞は、見た目は細胞分裂中のようでありながら、実際には分裂前の状態で活動を抑えた状態であることを明らかにした
- 花粉が水を得ると、細胞核の構造変化と遺伝子の働きの再開、細胞分裂が段階的に進むことを解明した
- 花粉が「長く生き延びる」と「すぐに動き出す」を両立する仕組みの理解が進み、将来的には作物の受粉効率向上や生産安定化への応用が期待される
植物の花粉は、「活動を止めたまま長く生き延び、必要なときにすぐ動き出す」という、ユニークな性質を持つ。しかし、このような性質が細胞の内部でどのように実現されているのかは、十分に分かっていなかった。
山形大学の澁田 未央 助教らの研究グループは、花粉の中に存在する細胞のうち、遺伝情報の伝達を担う「雄原細胞」に着目した。この細胞の核は、見た目には細胞分裂中の状態を思わせる特徴的な形を示す。しかし、解析の結果、実際には細胞分裂に入っているのではなく、分裂前の段階で活動を抑えた状態にあることが明らかになった。さらに、花粉がめしべに付着して水を吸収すると、核の構造が緩み、遺伝子の働きが速やかに再開した後、花粉管の伸長や細胞分裂が段階的に進行することが分かった。阻害剤を用いた解析から、これらのうち初期の核構造変化は遺伝子の働きに依存せずに進行する一方で、細胞分裂には遺伝子の働きの再開が不可欠であることが示された。これらの結果から、成熟した花粉の雄原細胞は、特殊な核構造によって活動を抑えながら長期間生存できる状態を維持するとともに、吸水後には速やかに活動を開始できるよう、必要な準備を整えた状態にあることが明らかになった。
本成果は、花粉の生存性や発芽の仕組みに関する基盤的理解を深めるものであり、将来的には作物の受粉効率や生産安定性の向上といった農業分野への応用につながることが期待される。
本研究の成果は、国際学術誌「Plant Direct」に2026年6月2日(現地時間)付で掲載された。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ACT-X「転写因子によらない迅速な転写制御機構の解明(研究代表者:澁田 未央、JPMJAX22BB)」、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 若手研究「シロイヌナズナ精核における転写制御機構の解明(研究代表者:澁田 未央、JP23K14218)」日本ジェネティクス「クロマチン凝集とリンクした転写状態の部分的維持機構の解明(研究代表者:澁田 未央)」の支援を受けて実施された。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.35MB)
<論文タイトル>
- “Generative Cell Division, but Not Early Nuclear Reorganization, Requires Transcriptional Reactivation During Pollen Tube Growth”
- DOI:10.1002/pld3.70175
<お問い合わせ>
-
<JST事業に関すること>
原田 千夏子(ハラダ チカコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 先進融合研究グループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K's五番町
Tel:03-6380-9130 Fax:03-3222-2066
E-mail:act-xjst.go.jp
-
<報道に関すること>
山形大学 総務部 総務課 秘書広報室
Tel:023-628-4008
E-mail:yu-kohojm.kj.yamagata-u.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3 サイエンスプラザ
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:jstkohojst.go.jp