ポイント
- 磁性体中の集団励起(マグノン)の“熱ゆらぎ”を、位相空間で一方向だけ押し縮める「熱スクイージング」を観測しました。
- 単一モード熱スクイージングに加え、薄膜の上下表面に偏って存在する2つのマグノンモード間に相関が生じる二モード熱スクイージングも実証し室温付近でも持続することを示しました。
- 磁気デバイスにおける究極的な低ノイズ化や、将来の量子情報技術、高効率な情報熱機関の実現に向けた新たな基盤技術となることが期待されます。
東京大学 大学院工学系研究科の日置 友智 助教、齊藤 英治 教授(兼:理化学研究所 創発物性科学研究センター チームディレクター、東北大学 材料科学高等研究所 主任研究者)、東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR)のMehrdad Elyasi(メフルダード・エリヤシ) 准教授、Gerrit Ernst-Wilhelm Bauer(ゲリット・エルンスト=ヴィルヘルム・バウアー) 主任研究者らの研究グループは、磁性体中のスピンの集団運動である「マグノン」において、熱ゆらぎを特定の方向に圧縮する「熱スクイーズ状態(Thermally squeezed state)」を観測することに成功しました。
物理学において、系のノイズを特定の位相で減少させる「スクイーズ(絞り込み)」は、精密計測や量子情報処理の鍵となる概念です。これまで光や音の波(フォノン)では研究が進んでいましたが、磁性体における実現は困難とされてきました。
本研究では、マイクロ波によるパラメトリック励起を用いることで、マグノンの熱ゆらぎを特定の位相で熱励起レベル以下に抑制できることを証明しました。さらに、薄膜の上面と下面に分かれて存在するマグノン間に相関が生じる「二モード熱スクイーズ」の観測にも成功しました。この成果は、磁性体を用いた低ノイズなセンシング技術や、非平衡に特有なスクイーズ強度を自由度として用いることで、平衡熱力学の限界を超える熱機関の創出に道を開くものです。
本研究成果は、2026年6月1日(英国夏時間)に「Nature Physics」に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST 非古典スピン集積システム(No.JPMJCR20C1)、戦略的創造研究推進事業 さきがけ(No.JPMJPR24F9)、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業(No.JP21K13847、JP22K14584、JP22H04965、JP23KJ0607、JP24H02231、JP24KJ0927、JP25K17943)、ATF 研究助成、SCAT 研究助成、東京大学・ソフトバンク Beyond AI 連携事業などによる支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(514KB)
<論文タイトル>
- “Single- and two-mode thermal magnon squeezing”
- DOI:10.1038/s41567-026-03294-4
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