ポイント
- 細胞内の温度変動の物理的機構を探るため熱移動を可視化した結果、熱の広がる速度が従来の予測(マイクロ秒:100万分の1秒)より劇的に遅く、数秒間も維持されることを発見しました。また、細胞内構造や分子が熱の逃げにくさに影響していることを突き止めました。
- 熱は一瞬で拡散するという物理学の常識を覆し、細胞内には熱伝導モデルでは説明できない非拡散的な熱移動メカニズムが存在することを世界で初めて明らかにしました。
- 本成果は、生命が極微量の熱を操るという生命科学の新基軸を提唱するものです。この新指針は、細胞機能における高いエネルギー効率の根本原理を解明するだけでなく、次世代バイオ技術の創出や疾患メカニズムの理解に革新をもたらすことが期待されます。
東京大学 大学院薬学系研究科の寳田 雅治 特任助教と岡部 弘基 特任准教授らによる研究グループは、細胞内温度変動を支配する熱移動の新原理を明らかにしました。細胞内の温度変化は生命活動に重要である一方、その物理学的な原理は長く謎に包まれていました。本研究は、独自の温度センサーと定量的イメージング法を用いた細胞内温度分布追跡により、細胞内の熱散逸が従来の熱伝導モデルでは説明できないほど劇的に遅く、局所的な高温が数秒間も持続することを世界で初めて発見しました。この現象は細胞内の構造や分子による「非拡散的」な機構に由来しており、エネルギーの最終産物として速やかに放出されると考えられてきた熱が細胞内で保持されることを発見しました。
本研究で示した、生命におけるわずかなエネルギーの効率的な利用を可能とする細胞内熱移動の根本原理は生命科学の新基軸を提唱するものであり、将来的に革新的なバイオ技術や疾患解明への貢献が期待されます。
本研究成果は、2026年5月28日(英国夏時間)付で、「Nature Communications」に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR24B6)、同 さきがけ(JPMJPR18I1)、日本学術振興会(JSPS) 科研費(課題番号:JP18H03981、JP20H05785、JP21J14440、JP24H02306、JP25K02236)、ライフサイエンス振興財団、ブレインサイエンス振興財団の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
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<論文タイトル>
- “Non-diffusive slow heat dissipation induces high local temperature in living cells”
- DOI:10.1038/s41467-026-71878-y
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