ポイント
- 着床に伴う子宮内膜の脱落膜化において、コラーゲンを中心とした細胞外マトリックス(ECM)の再構築が重要であることを、ヒトおよびマウスのシングルセル解析により解明
- HippoシグナルのエフェクターであるTAZ(WWTR1)が、ECM関連遺伝子群を制御し、脱落膜形成を誘導する中核因子であることを発見
- 子宮特異的TAZ欠損マウスでは、脱落膜化不全、血管形成障害、栄養膜細胞の侵入不全が生じ、胚(はい)の早期消失と不妊を引き起こすことを実証
- 本成果が、不妊症や胎盤形成異常、胎児発育不全などの妊娠合併症に対する新たな診断・治療法の開発につながることを期待
東京大学医学部附属病院の藍川 志津 特任研究員(研究当時/現・筑波大学 生存ダイナミクス研究センター 准教授)、東京大学 大学院医学系研究科の賀 雪婷 氏(医学博士課程:研究当時)、廣田 泰 教授らは、着床期子宮内膜における脱落膜化過程において、HippoシグナルのエフェクターであるTAZ(WWTR1)が、コラーゲンを中心とした細胞外マトリックス(Extracellular matrix:ECM)の再構築を制御し、胚の着床とその後の正常な胚発生・胎盤形成に必須の役割を果たすことを明らかにしました。シングルセルRNAシーケンスおよび空間トランスクリプトーム解析により、TAZが子宮内膜間質細胞におけるECM関連遺伝子群の発現を誘導し、脱落膜形成および血管新生を促進することを見いだしました。さらに、子宮特異的TAZ欠損マウスを用いた解析から、TAZの欠損が脱落膜化不全、胚の浸潤障害や流産・新生児致死を引き起こすことを示し、TAZが着床後初期の子宮内環境形成に不可欠であることを実証しました。
不妊症は世界の成人人口の約6人に1人が直面する重要な課題であり、日本においても生殖補助医療の需要は年々増加しています。しかし、良好な胚を移植しても妊娠に至らない着床不全は依然として大きな問題です。本研究成果は、着床期における子宮内膜環境の形成機構の一端を明らかにしたものであり、不妊症や胎盤形成異常、胎児発育不全、さらには妊娠高血圧症候群などの妊娠合併症に対する新たな診断・治療法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年5月18日(米国東部夏時間)の週に、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR210H)、日本医療研究開発機構(AMED) 成育疾患克服等総合研究事業(課題名:「子宮内膜分子解析と人工知能による着床障害の診断ストラテジーの確立」、「血小板機能異常と慢性炎症で起こる着床不全に対する新規治療法開発」、「子宮内細菌叢検査を活用した不妊症の治療ストラテジー創出」)・女性の健康の包括的支援実用化研究事業(課題名:「子宮腺筋症における薬剤抵抗性の分子機構解明に基づく治療戦略構築」)・「統合医療」に係る医療の質向上・科学的根拠収集研究事業(課題名:「着床障害患者の子宮内細菌叢に対する乳酸菌サプリの有効性・安全性を検証するランダム化比較試験」)、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 基盤研究A(課題番号:JP25H01065)・基盤研究B(課題番号:JP23K27176、JP25K02779)・基盤研究C(課題番号:JP23K08278)・挑戦的研究(萌芽)(課題番号:JP24K22157、JP24K21911)、こども家庭科学研究費補助金(課題番号:JPMH23DB0101)、持田記念医学薬学振興財団、上原記念生命科学財団、井上科学振興財団、アステラス病態代謝研究会、内藤記念科学振興財団、東大病院・ニプロ株式会社共同研究契約の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(868KB)
<論文タイトル>
- “TAZ Integrates ECM Remodeling with Uterine Stromal Differentiation to Maintain Early Pregnancy”
- DOI:10.1073/pnas.2528309123
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