ポイント
- 加齢に伴って生じるクローン性造血が、大動脈瘤(りゅう)の拡大を促進することを明らかにした。
- 大動脈瘤悪化の機序として、クローン性造血の原因遺伝子の一つであるTet2に変異を有するマクロファージが破骨細胞様細胞へと分化し、血管壁の弾力を保つエラスチンを分解することで大動脈瘤を増悪させることを見いだした。
- この過程に関与するRANK-RANKLシグナルを、遺伝学的手法または阻害剤により抑制することで、動物モデルにおける動脈瘤進行が抑制され、大動脈瘤に対する内科的治療戦略の可能性が示された。
名古屋大学 大学院医学系研究科 循環器内科学の米川 淳 大学院生(筆頭著者)、同大学 医学部附属病院 循環器内科の由良 義充 病院助教(同大学 高等研究院兼務)(責任著者)、竹藤 幹人 講師、同大学 大学院医学系研究科 循環器内科学の室原 豊明 教授と血管外科学の坂野 比呂志 教授らの共同研究により、腹部大動脈瘤に対する内科的治療法の開発を目指し、近年「加齢に伴う血液の変化」として注目されているクローン性造血に着目した研究を行いました。
腹部大動脈瘤は、大動脈がこぶ状に拡張する病気で、破裂すると突然死に至ることもある重篤な疾患です。現在、有効な薬物治療はなく、一定以上に拡大した場合には手術(開腹手術やステントグラフト治療)が主な治療法となっています。そのため、動脈瘤の進行を抑える内科的治療の開発が強く求められています。
近年、加齢に伴って血液をつくる細胞に遺伝子変異が生じ、変異を持った特定の血液細胞が増える現象であるクローン性造血が、心血管疾患の新たな危険因子として注目されています。本研究では、このクローン性造血が腹部大動脈瘤の進行にどのように関与しているかを検討しました。
腹部大動脈瘤の手術予定患者の血液由来DNAを解析した結果、クローン性造血を有する患者では、動脈瘤の拡大速度がより速いことが示されました。さらに動物実験により、クローン性造血の原因遺伝子の1つであるTet2に変異を持つ免疫細胞(マクロファージ)が、骨を分解する細胞(破骨細胞)に似た性質を獲得し、血管壁の弾力を保つエラスチンを分解することで、動脈瘤を悪化させる新たな病態メカニズムを解明しました。
また、この過程に関与するRANK-RANKLシグナルを遺伝学的または薬理学的に抑制することで、動物モデルにおける動脈瘤の進行が抑えられることを示しました。
本研究は、腹部大動脈瘤において、血管そのものの要因に加え、血液の加齢性変化という新たな視点から病態を捉え、内科的治療戦略の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、現地時間2026年2月25日付、American Society for Clinical Investigation (ASCI) が発行する雑誌「Journal of Clinical Investigation」に掲載されました。
本研究は主に、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業「クローン性造血を介した加齢性心血管病の病態解明」(JPMJFR2217)、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業「クローン性造血が心血管病を修飾する機構の解明」(JP24K19026)、日本医療研究開発機構(AMED)「豊かな人生を育む多世代共生・健康社会を目指す医学研究者育成プログラム」(JP256f0137010)の支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(814KB)
<論文タイトル>
- “Tet2-driven Clonal Hematopoiesis Drives Aortic Aneurysm via Macrophage-to-Osteoclast-like Differentiation”
- DOI:10.1172/JCI198708
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