海洋研究開発機構,水産研究・教育機構,九州大学,科学技術振興機構(JST)

2026(令和8)年2月18日

海洋研究開発機構
水産研究・教育機構
九州大学
科学技術振興機構(JST)

四半世紀の観測でわかった冷たい北の海の変化

~カムチャツカ半島沖の海の酸性化や生物生産の推移~

ポイント

海洋研究開発機構 地球環境部門 むつ研究所 海峡・沿岸環境変動研究グループの脇田 昌英 副主任研究員らの研究グループは、北太平洋西部亜寒帯域のカムチャツカ半島沖に位置する定点K2(北緯47度、東経160度)において、1999~2023年の25年間にわたって、海洋地球研究船「みらい」などで得られた生物地球化学観測データを解析しました。その結果、本海域では海洋酸性化が着実に進行していることに加え、生物生産の長期的な変化が明らかにされました。

衛星および船舶観測データから、定点K2での海面水温は、年0.056℃の割合で上昇し、日本近海(年0.030℃)よりも速く進行(1.87倍)していました。海洋の表層混合層(0~150m未満)の塩分は年0.004の割合で低下していました。また、人間活動によって排出されたCO2の吸収により、pHおよび炭酸カルシウム飽和度(カルサイト・アラゴナイト)は統計的に有意に低下しており(pH:年0.0014,カルサイト:年0.007、アラゴナイト:年0.004)、本海域で海洋酸性化が進行していることが確認されました。本海域の亜寒帯・極域は物理過程と生物過程が複雑に絡み合うことが知られており、ハワイなどの亜熱帯域に比べて変動幅が大きく、酸性化の進行も速いと予想されていました。しかしながら、本海域の海洋酸性化は、意外にも世界平均とほぼ同程度であることが分かりました。

一方、生物生産で消費される栄養塩(ケイ酸塩、リン酸塩、硝酸塩)の年平均濃度には明確な長期変化はみられませんでした。しかし、季節別に解析すると、5月に増加、7月に減少するという10年規模の変化が確認されました。冬季から夏季にかけての栄養塩の季節変動から推定した純群集生産量(NCP)も、冬季から5月にかけては減少し、冬季から7月にかけては増加するという対照的な傾向を示しました。その結果、本海域では、生物生産が「春(5月)に増加、夏(7月)に減少」するという季節依存性を示すことを、新たに見いだしました。

さらに本研究では、5月の光合成有効放射(PAR)のみが25年間で年0.20の割合で低下していることを明らかにしました。この現象は、光環境の低下が春季の生物生産減少に影響していることを示唆しています。一方、7月のNCP増加による各栄養塩の元素の化学量論比(P:N:Si=1:15:55)は過去の報告(1:16:40)に比べて、Si(ケイ素)だけが高く、ケイ藻によるケイ酸塩消費の強化が示されました。8月の黄砂飛来量が年々増加していることが数値モデルからも示されたことから、黄砂から供給される鉄利用能が、夏季のケイ藻生産増加の現象に関与している可能性が考えられました。

本海域の生物生産は、黄砂や海洋深層から供給される鉄の利用能に加え、海霧の発生に伴う光環境の変化にも影響されると報告されていることから、光環境、大気起源物質、ならびに中・深層からの物質供給の変化が、長期的に北太平洋亜寒帯域の生物生産の季節的なパターンに直接影響を及ぼしている可能性が明らかになりました。今後も、「みらい」の調査・観測活動を引き継ぐ北極域研究船「みらいⅡ」などによる定点K2での継続観測を通じて、海洋酸性化を含む環境変化の影響解明を進めていきます。

本成果は、「Progress in Earth and Planetary Science」誌に現地時間2026年2月14日付けで掲載されました。

本研究は科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 CREST「海洋とCO2の関係性解明から拓く海のポテンシャル」領域(JPMJCR24J1、課題名:気候変動に伴う低次栄養段階生物の応答と炭素吸収能の評価)と科学研究費補助金(科研費)(JP25106709、JP15H02835、JP23K20393)の支援のもと実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Ocean acidification and changes in biological production in the western subarctic region of the North Pacific over the quarter century, 1999–2023”
DOI:10.1186/s40645-026-00799-7

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