理化学研究所(理研) 生命機能科学研究センター 形態形成シグナル研究チーム(研究当時)の板倉 由季 研究員(研究当時)、林 茂生 チームリーダー(研究当時、現 発生ゲノムシステム研究チーム 客員主管研究員)らの研究チームは、細胞外基質が細胞に対して圧縮力を及ぼすような環境(圧縮的な環境)をつくり出し、その結果として、昆虫の表皮を覆うクチクラに微細構造が構築されることを発見しました。
本研究成果は、細胞外基質の力学的な作用が細胞外でのナノスケール構造の加工に働くことを示し、生体材料を生物学的に加工して機能的な素材を生物につくらせる技術の基盤として役立つものと期待されます。
昆虫の体表を外骨格として覆うクチクラはその表面にしばしばナノメートルスケールの構造を有し、さまざまな機能を担っています。今回、研究チームは、昆虫のクチクラの形成に関わる成分として、ZPDタンパク質と呼ばれる分子群に着目しました。ショウジョウバエの嗅覚器官を覆うクチクラ層には多数の微小な穴(ナノポア)が存在し、この穴を通して神経細胞は匂い分子を受容します。クチクラ形成に先立って嗅覚器官周辺で生産されるZPDタンパク質を調べたところ、嗅覚毛細胞は「雲」のように分布するZPDタンパク質で覆われていることを発見し、これを「クラウドECM(cloud extracellular matrix)」と名付けました。嗅覚毛細胞はこのクラウドECMから圧縮力を受けており、クラウドECMの形成を阻害するとナノポアの形成に異常が見られました。このことから、クラウドECMがつくる圧縮的な環境がクチクラのナノ加工を形成するものと考えられました。
本研究は、科学雑誌「Science Advances」オンライン版(現地時間2026年1月2日付)に掲載されました。
本研究は、理化学研究所 運営費交付金(生命機能科学研究)で実施し、理研BDR-大塚製薬連携センター(RBOC)かけはしプログラム、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)「自己組織化する細胞外マトリクス分子による嗅覚器官表面ナノ構造の形成(研究代表者:板倉 由季、JP23H04324)」「細胞外での分子の自己組織化による感覚器官の形づくり(研究代表者:板倉 由季、JP21H05791)」、同 基盤研究(C)「細胞外マトリクス分子の自己組織化による感覚器官の作り分け(研究代表者:板倉 由季、JP23K05838)」、同 挑戦的研究(開拓)「細胞外基質ナノ構造の生物学的構築原理の解明(研究代表者:林 茂生、JP20K20460)」「昆虫の機能的ナノ構造を規定する遺伝子ファミリー(研究代表者:林 茂生、JP24K21276)」、ひょうご科学技術協会、花王 芸術・科学財団、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「生体内ナノ結晶構造の進化的起源の構成的理解(研究代表者:安藤 俊哉、JPMJCR24B1)」による支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
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<論文タイトル>
- “Mechanical control of the insect extracellular matrix nanostructure”
- DOI:10.1126/sciadv.adw5022
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