九州大学,科学技術振興機構(JST)

2025(令和7)年12月29日

九州大学
科学技術振興機構(JST)

高次元データから細胞運命の“かたち”を取り出す

~生命システムの成り立ちと破綻の予測や制御の道を拓く数理解析手法を開発~

ポイント

生命科学研究では、単一細胞(シングルセル)解析と呼ばれる、多数の細胞を網羅的に測定する技術が急速に普及しています。一方で、シングルセル解析は侵襲的であり、一度限りの“静止画”の寄せ集めであるため、これから分化・老化・がん化する細胞がどのような運命をたどるかという、細胞状態のダイナミクス(細胞運命)を直接捉えることは困難でした。とくに、各データは異なる細胞由来の計測値であること、そして細胞状態を指定するパラメータの数が数万〜数十万と非常に多く、高次元データ特有の複雑さを持つことが動的解析を阻む大きな障壁となっていました。

今回、九州大学 大学院医学研究院の前原 一満 准教授と生体防御医学研究所の大川 恭行 教授は、静止画的なデータから細胞の動的情報を従来法の100倍以上の精度かつ高速に復元できる数理解析技術ddHodgeを開発しました。

ddHodgeは、データから細胞状態変化の道のりを見いだすと同時に、それぞれの道のりの安定性や不安定性を決定付けるダイナミクスの構造(ポテンシャル地形=細胞運命の“かたち”)まで定量化できる技術です。約4.5万細胞からなるマウス胚のシングルセル遺伝子発現データにddHodgeを適用したところ、発生過程の大部分が特定のポテンシャル地形の傾斜に沿って進む勾配系のダイナミクスとして説明できることを世界で初めてデータで実証しました。またddHodgeは、高次元で複雑な細胞運命の「時」と「場所」を決定付ける仕組みを解析するためのソフトウェアとして実装し、公開しました。

(https://github.com/kazumits/ddHodge.jl)

本解析技術はシングルセルデータへの応用にとどまらず、生命科学・材料科学・気象データなど、より広い領域に存在する高次元ビッグデータに共通する「高次元データの形態と動態を同時に捉える」という根本課題に対し、幾何学的データ解析に基づく新たな数学的基盤を提供します。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に2025年12月29日(月)(日本時間)に掲載されました。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「マルチモーダル時空間統合オミクス解析による哺乳類細胞運命制御基盤の理解」(JPMJCR23N3)、「1細胞データ科学を介した融合数理の革新」(JPMJCR24Q1)、同 さきがけ「生命現象の定性的理解を支援するデータ解析技術の創出」(JPMJPR2026)、文部科学省・日本学術振興会(JSPS) 科研費 学術変革領域研究(A)「個体の細胞運命決定を担うクロマチンのエピコード解読」(JP24H02323)、ならびにJSPS 科研費(JP22H04696、JP23H04288、JP25H01484、JP23H00372、JP22H04676、JP22K19275)、AMED BINDS(JP22ama121017)、汎オミクス計測・計算科学センター、九州大学 高深度オミクスサイエンスセンター、九州大学 情報基盤研究開発センター、多階層生体防御システム研究拠点事業、学際領域展開ハブ形成プログラム、九州大学 オートノマス医学研究センターの支援を受けたものです。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Geometry-preserving vector field reconstruction of high-dimensional cell-state dynamics using ddHodge”
DOI:10.1038/s41467-025-67782-6

<お問い合わせ>

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