ポイント
- 地球上に生息するさまざまな真正細菌が共通に持つ「細胞内で合成が困難なアミノ酸配列(難翻訳配列)」の共通の配列パターンを発見した。
- このような難翻訳配列を含むたんぱく質は進化の過程で強く排除されるため、自然界ではめったに見られない。
- 一方で、難翻訳配列を積極的に利用したユニークな機能を発揮する一連のたんぱく質があることが明らかとなった。
- 難翻訳配列を巧妙に利用した多様な仕組みは、これまで知られていた以上に多様であることが示唆された。
京都産業大学 大学院生命科学研究科の千葉 志信(しのぶ) 教授と藤原 圭吾 研究員(現 国立遺伝学研究所 特命助教・JST さきがけ研究員)、辻 奈緒子 さん(京都産業大学 大学院生命科学研究科 大学院生)、崎山 歌恋(かれん) さん(京都産業大学 大学院生命科学研究科 修了生)、仁木 宏典 教授(国立遺伝学研究所)らは、地球上に生息する多様な細菌が共通して合成を苦手とするアミノ酸配列(難翻訳配列)を持つことを明らかにしました。アミノ酸は、細胞の生育に重要なたんぱく質を構成する部品であるため、細胞は、難翻訳配列を含むたんぱく質を効率良く合成することはできません。実際、同グループが行った細菌界全体をカバーした網羅的な解析の結果、このような難翻訳配列が、細菌の持つたんぱく質の内部に見つかることはほとんどありませんでした。すなわち、細菌が、難翻訳配列の使用を避ける方向へと進化してきたことが示唆されました。一方で、同グループは、このような難翻訳配列が、比較的小さなたんぱく質の末端(カルボキシ末端)付近にはしばしば現れることも発見しました。生物情報学的な解析から、これらのたんぱく質は、変動する環境へ細胞が適応する上で、重要かつ多様な役割を果たしていることが示唆されました。
この一連の研究は、細胞にとって不都合に思える難翻訳配列が、一般的には細胞内のたんぱく質から進化的に排除される一方で、むしろその性質を逆手に取る形で利用することで、さまざまな細菌が、環境変化に上手に適応する独自の戦略を進化的に獲得してきたことを示したものです。
この研究成果は、日本時間2025年12月9日(火)付で、国際科学誌「The EMBO Journal」に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金・新学術領域研究(JP26116008)、学術変革領域研究(A)(JP20H05926)、基盤研究(C)(JP21K06053)、基盤研究(B)(JP25K02230)、発酵研究所助成金(G-2021-2-063)、武田科学振興財団生命科学研究助成(研究代表者:千葉 志信)、若手研究(JP19K16044、JP21K15020)、発酵研究所助成金(G-2024-2-071)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR24ND)(研究代表者:藤原 圭吾)、同 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)(JPMJSP2157)(辻 奈緒子)の支援を受けて実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.51MB)
<論文タイトル>
- “Evolutionary Adaptation of Bacterial proteomes to Translation-Impeding Sequences”
- DOI:10.1038/s44318-025-00651-6
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