奈良先端科学技術大学院大学,科学技術振興機構(JST)

2025(令和7)年12月8日

奈良先端科学技術大学院大学
科学技術振興機構(JST)

細胞表面の突起がちぎれて生じる細胞外小胞はたんぱく質を高効率に送達していた

~遺伝子編集酵素も機能的に輸送可能に~
老化やがんの研究を促進する発見に期待

奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域の末次 志郎 教授、西村 珠子 准教授、藤岡 敏史 大学院生(研究当時)を中心とした研究グループは、ジョンズ・ホプキンス大学の井上 尊生 教授、岐阜大学および国立がん研究センター研究所の鈴木 健一 教授ら、東京大学の濡木 理 教授らの研究グループと共同で、細胞突起(フィロポディア)から放出される膜状の構造物である細胞外小胞(extracellular vesicle(s):EV(s))による高効率なたんぱく質送達の仕組みを明らかにしました。

EVは脂質二重膜からなる微小な膜小胞で、たんぱく質やRNAを包みこみ、細胞間で輸送することにより、老化やがんなどの生理的・病理的過程に関与することが知られています。これまで主に、細胞内の物質を包む膜構造物のエンドソームに由来し外部に放出されるEVが研究・応用されてきましたが、たんぱく質を機能的な形で効率よく送達することは困難でした。

末次教授の研究グループはこれまでに、細胞表面の突起がちぎれて生じるEVが、細胞間でたんぱく質を輸送し、細胞の性質を制御する新たな機構を見いだしていました。今回の研究では、この突起由来EVが実際に運搬するたんぱく質量の絶対量を測定し、その量が細胞の性質を変化させるのに十分であることを示しました。さらに、細胞突起を構成するたんぱく質とゲノム編集酵素を融合させることで、EVに酵素を効率的に搭載し、受容細胞に送達できることを実証しました。これらの結果から、突起由来EVはエンドソーム由来EVよりも高効率なたんぱく質送達が可能であることが示唆されました。

この成果は、EV形成機構の理解を深め、老化やがんとの関連研究に新たな知見を提供するとともに、EVを介した細胞操作技術の基盤を築くものです。

本研究成果は、英国の学術誌「Nature Communications」に2025年12月8日(月)(日本時間)に掲載されました。

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR24B3)、科学研究費補助金(基盤研究(B)(JP24K02024、JP23H02476、JP20H03252)、基盤研究(C)(JP24K09778、JP20K06625、JP17K07427)、基盤研究(S)(JP21H05047)、国際共同研究強化(A)(JP20KK0341)、学術変革領域研究(A)(JP24H01286))、JST 創発的研究支援事業(JPMJFR2413)、武田科学振興財団などの支援を受けて行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Efficient Cellular Transformation via Protein Delivery through the Protrusion-Derived Extracellular Vesicles”
DOI:10.1038/s41467-025-66351-1

<お問い合わせ>

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