ポイント
- 100ピコ秒級の電流パルスによる高速な磁化反転過程をノンコリニア反強磁性体で観測した。
- 電流密度に応じて反転の熱的・非熱的起源が切り替わることを時間分解測定で明確に示した。
- 反強磁性体の超高速スピントロニクスメモリー応用に向けた重要な知見となる。
東京大学 大学院理学系研究科の小川 和馬 大学院生、Tsai Hanshen(ツァイ・ハンシェン) 特任助教、中辻 知 教授(物性研究所・トランススケール量子科学国際連携研究機構 兼任)、同大学 低温科学研究センターの島野 亮 教授(大学院理学系研究科・トランススケール量子科学国際連携研究機構 兼任)らのグループは、ワイル半金属として知られるノンコリニア反強磁性体Mn₃Sn薄膜(マンガン(Mn)とスズ(Sn)から成る薄膜)を対象に、100ピコ秒(ps、ピコは1兆分の1)級の短い電流パルスによって誘起される磁化反転のダイナミクスの機構を時間分解磁気光学カー効果イメージングによって明らかにしました。
時間分解観測の結果、磁化反転の過程が電流密度によって大きく異なることが判明しました。高電流密度ではジュール熱(導体に電流を通した際に生じる熱)による反強磁性の秩序の融解を介した熱的反転が支配的である一方、低電流密度では磁気秩序を維持したままスピン軌道トルクにより駆動される高速な非熱的反転を観測することに成功しました。本成果は、高周波のテラヘルツ帯で動作するメモリーやロジック素子など、反強磁性体の超高速スピントロニクスへの応用に向けて有用な指針を与えます。
本研究成果は、2025年12月4日(英国時間)に「Nature Materials」のオンライン版で公開されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 未来社会創造事業 大規模プロジェクト型「スピントロニクス光電インターフェースの基盤技術の創成」(課題番号:JPMJMI20A1)の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
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<論文タイトル>
- “Ultrafast time-resolved observation of non-thermal current-induced switching in an antiferromagnetic Weyl semimetal”
- DOI:10.1038/s41563-025-02402-8
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