ポイント
- 全遺伝子の“型”を統一規則で記述する共通言語が求められていた
- 世界初、ヒト1.9万の遺伝子の“型”をACTG階層で体系化した辞書を構築
- 遺伝子の個人差は「点」から「線」の時代へ、医療・創薬への応用に期待
遺伝子の型は身近な例に、血液型が挙げられます。遺伝子は塩基配列から構成されており、その塩基配列の型(ハプロタイプ)は個人ごとに(または一人一人、人によって)少しずつ違います。その違いが遺伝子の発現量や薬の代謝機能といった遺伝子機能の差を生み出すことが知られています。しかし、全遺伝子を網羅する共通の“型”の命名法や辞書は、これまでありませんでした。九州大学 生体防御医学研究所の長﨑 正朗 教授らは、汎用的な新規遺伝子型表記法(ACTG階層命名法)を確立し、ヒトの19,194遺伝子について、4,656,478個の遺伝子型を整理しました。本データベースは、JoGo(Joint Open Genome and Omics:ジョーゴ;https://jogo.csml.org)からアクセスできます。
JoGoは、世界集団を対象に、長鎖型シークエンサの情報に基づき、遺伝子型を統一規則でカタログ化した世界初のデータベースです。今回公開した同データベースの1.0版であるJoGo 1.0では、5大陸の258人から得られた全ゲノム長鎖型シークエンサ由来の塩基配列情報を解析しました(このうち108人は本プロジェクトチームが測定)。ACTG階層命名法は、A(アミノ酸)/C(コーディング)/T(転写:UTR)/G(遺伝子本体)の遺伝子型を定義し、世界集団における頻度順でIDを付番します。また、国際参照配列(GRCh38とCHM13v2)由来の遺伝子型も収載しており、同一の番号空間で直接比較できるのが特徴です。さらに、臨床、形質、遺伝子発現に関連する公共データベース(ClinVar、GWAS Catalog、GTExなど)の情報を、遺伝子型に重ねて閲覧できます。本ACTG階層命名法により、ゲノム・メディカルサイエンスの遺伝子を表現するための辞書に、いままで遺伝子解析は、個々の変異という「点」の情報が中心でしたが、ACTG階層命名法により、遺伝子全体の配列型という「線」の情報を扱えるようになります。この辞書を整備することで、病気との関連や薬の反応をより高い解像度で把握できるようになります。JoGo 1.0では、オンラインでの遺伝子型の閲覧機能に加え、個人データを外部に出さないローカル閲覧にも対応しています。
本成果は「Nucleic Acids Research」にBreakthrough Articleとして2025年11月29日(現地時間)付で掲載されました。
本研究のJoGo 1.0の構築は主に、科学技術振興機構(JST) ライフサイエンスデータベース統合推進事業(統合化推進プログラム)(JPMJND2302)の支援を受けました。また、本研究に関連する計算の一部のリソースは、学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点(JHPCN)および高性能計算基盤(HPCI)の支援を一部受けました(プロジェクトID:jh200047-NWH、jh210018-NWH、jh220014、jh230016、jh240015、jh250010)。
他に、日本医療研究開発機構(AMED)の支援(課題番号:JP20ek0109492、JP21wm0425009、JP20ek0109485、JP21ek0109548、JP22fk0210111、JP23fk0210138、JP23ek0210194、JP24gm2010001、JP23ek0109675、JP23ek0109672、JP22tm0424222、JP25fk0310536、JP25fk0310535、JP25wm0625519)、日本学術振興会(JSPS) 科研費(JP21H02681)を一部受け、九州大学 生体防御医学研究所(MIB)における文部科学省 共同利用・共同研究システム形成事業~学際領域展開ハブ形成プログラム~(JPMXP1323015486)、高深度オミクス医学研究拠点整備事業、および多階層生体防御システム研究拠点の助成を一部受けました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(2.03MB)
<論文タイトル>
- “JoGo 1.0: the ACTG hierarchical nomenclature and database covering 4.7 million haplotypes across 19,194 human genes”
- DOI:10.1093/nar/gkaf1232
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