ポイント
- 数学の「最適輸送理論」から予測される、限られた時間における熱力学的なエネルギーコストの原理的な最小を、初めて実験で実現しました。特に、情報処理の基本過程である「情報消去」に相当する操作に応用しました。
- 光の力で微小粒子を高速・高精度で制御する新開発の「走査型光ピンセット技術」により、水中で熱ゆらぎを受けてランダムに動く粒子を制御することで、数学の理論が予測する「最適輸送」の実現に成功しました。
- 将来的に本成果は、よりエネルギー効率の高い情報処理技術や自律的人工ナノマシン設計の基盤となることが期待されます。
私たちが何かを動かすときには、熱力学的なエネルギーコストが伴いますが、そのコストには原理的な最小値があります。コンピューターの情報処理も同様で、例えば情報を「消去」するにも、どんなに工夫してもこれ以下には減らせない最小のエネルギーコストが存在します。この限界は動かす速さに応じて変化しますが、これまでは無限にゆっくり操作する場合でのみ実験的に示すことができていました。
東北大学 大学院工学研究科の及川 晋悟 大学院生(研究当時)、中山 洋平 助教、鳥谷部 祥一 教授は、東京大学 大学院理学系研究科の伊藤 創祐 准教授、東京大学 大学院工学系研究科の沙川 貴大 教授との共同研究により、光の力で微小粒子を高速・高精度に制御する技術を新たに開発し、数学の「最適輸送理論」が予測する、時間が限られた状況での理論上の最小エネルギーコストで、情報消去に相当する操作を実現しました。将来的に本成果は、よりエネルギー効率の高い情報処理技術の設計原理の確立につながると期待されます。
本成果は2025年12月1日(現地時間)付で総合科学誌「Nature Communications」に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ERATO「沙川情報エネルギー変換プロジェクト(課題番号:JPMJER2302)」、科研費 「微分幾何学に基づいた非平衡熱力学における普遍的原理の探究」(課題番号:JP22H01141)、科研費 「生体分子機械の最適輸送プロトコル」(課題番号:JP23H01136)、科研費 「ゆらぎの熱力学に基づく確率的コンピューティング基盤の創出」(課題番号:JP23H00467)、科研費 「幾何学的な最適性に基づく熱力学的なトレードオフ関係の量子拡張」(課題番号:JP24H00834)の支援により実施されました。また、東北大学 「2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」の支援を受けました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(605KB)
<論文タイトル>
- “Experimentally achieving minimal dissipation via thermodynamically optimal transport”
- DOI:10.1038/s41467-025-66519-9
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