科学技術振興機構(JST),東京都公立大学法人 東京都立大学

2025(令和7)年11月14日

科学技術振興機構(JST)
東京都公立大学法人 東京都立大学

ポリエステルを化学原料に完全変換可能な高性能鉄触媒の開発

~安価で製造も容易、資源循環型社会の基盤技術に~

ポイント

JST 戦略的創造研究推進事業 CRESTにおいて、東京都立大学 大学院理学研究科の野村 琴広 教授らの研究グループは、PET(ポリエチレンテレフタレート)などのポリエステルとアルコールを混合・加熱するだけで、効率良く(ほぼ100パーセント;99.7~99.9パーセント)化学原料(モノマー)に変換可能な高性能触媒の開発に成功しました。

ペットボトルや衣料廃棄物などのプラスチックごみ問題は、早期に解決すべき重要課題ですが、現状はほとんどが燃料としての再利用で、原料として再利用される割合は低いのが現状です。特にペットボトルの回収・リサイクルでは品質低下が懸案で、いったんエステル結合を切断して効率良く化学原料に戻す「ケミカルリサイクル」手法の開発が重要です。しかし、従来法では環境負荷の高い、高温かつ過剰の無機塩基や酸などが必要とされるために、シンプルで安価、環境負荷の低い手法開発が切望されていました。

本研究グループは、多量の無機塩基などを必要とせず、ポリエステルとアルコールを混合するだけで原料に変換する触媒開発に注目して研究に取り組みました。その結果、従来法より温和な条件下でも触媒が高い性能で機能し、かつ、もとのポリエステルに含まれる成分をほぼ100パーセント、高純度のテレフタルジエステルなどに変換する高性能鉄触媒の開発に成功しました。入手容易で安価な鉄触媒を用いるケミカルリサイクルにより、単純な精製操作のみで高純度の化学原料が得られることを明らかにしました。

本研究成果は、実際のリサイクル工場で使用されるペットボトル廃棄物や衣料廃棄物でも高い触媒性能を発揮します。今回開発した鉄触媒で、今までより温和な条件下で、実社会のサンプルでもほぼ100パーセントに近い回収率を実現する技術を開発した意義は大きく、資源循環型社会の実現に向けた重要・有用な基盤技術となることが大いに期待されます。この触媒技術により、今後は高付加価値品の製造へも展開可能です。

本研究成果は、2025年11月12日(現地時間)に米国化学会の学術誌「ACS Sustainable Resource Management」のオンライン版で公開されました。

本成果は、以下の支援によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

「分解・劣化・安定化の精密材料科学」
研究総括:高原 淳
(九州大学 ネガティブエミッションテクノロジー研究センター 特任教授)
「機能集積型バイオベースポリマーの創製・分解・ケミカルリサイクル」
(課題番号:JPMJCR21L5)
野村 琴広(東京都立大学 大学院理学研究科 教授)
2021年10月~2027年3月

上記研究課題では、豊富な非可食植物資源からのバイオベースポリエステル・アミドの精密合成と高機能材料の開発、ポリマー分解によるモノマーや機能化学品の合成を可能とする高性能触媒の開発を目的としています。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Quantitative Chemical Conversion of PET Waste Bottles, Textile Wastes by Exclusive Transesterification with Alcohols by FeCl3-Amine Catalyst Systems”
DOI:10.1021/acssusresmgt.5c00447

<お問い合わせ>

(英文)“Exclusive Chemical Conversion of PET, Bottles, Textiles, and Plastic Waste Mixtures”

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