ポイント
- 次世代蓄電デバイス構築に向け、ハロゲン化物への酸素の導入により室温で4.1mS cm-1(ミリジーメンス毎センチメートル)の高いイオン伝導率を持つガラスを実現しました。
- 酸素が架橋酸素(Bridging Oxygen)としてイオン移動を促進する一方、非架橋酸素(Non-Bridging Oxygen)が過剰に存在すると伝導を阻害することを発見しました。
- 酸素の構造的役割を理論・実験の両面から解明し、イオン伝導性マルチアニオン化合物(Multi-Anion compound)の材料設計指針を確立しました。
安全で高性能な次世代蓄電技術として注目されている全固体電池の開発には、固体でありながら液体のようにイオンが動き回る固体電解質が不可欠です。
東北大学 多元物質科学研究所の大野 真之 准教授、米国 レンセラー工科大学のPrashun Gorai 助教授らの国際共同研究チームは、酸素を介したガラス構造の制御が固体電解質の性能を決定する鍵であることを突き止めました。
本研究チームは、ナトリウム酸化物と五塩化タンタル(xNa2O-TaCl5)を用いたガラス状固体電解質を合成し、酸素の導入が構造とナトリウムイオン輸送に与える影響を、実験と計算の両側面から詳細に解析しました。その結果、酸素量の変化によりナトリウムイオン伝導率が3つの領域に分かれて大きく変化し、最適組成(x≈0.5–0.8、五塩化タンタルに対するナトリウム酸化物の割合がおよそ0.5–0.8)で室温において4.1mS cm-1(電気抵抗の逆数、イオン伝導度の単位)の高伝導を示しました。酸素は、局所構造中で架橋酸素として金属塩化物ネットワークをつなぎ、イオンが移動する空間を広げイオン伝導を促進しますが、過剰に導入すると非架橋酸素が生成して、移動するナトリウムイオンとの相互作用を強め、イオン伝導を阻害することを発見しました。本成果により、全固体電池の基幹材料である固体電解質の新たな設計指針を確立しました。
本成果は、2025年11月11日(米国東部時間)付で、学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。
本研究は、豊田理化学研究所 ライジングフェロー制度、科学技術振興機構(JST) 先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)(JPMJAP2419)、JSPS 科研費(JP23K26762)、National Science Foundation(DMR-2119281)の支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(529KB)
<論文タイトル>
- “Oxygen-Mediated Structural Modulation and Ion Transport in xNa2O-TaCl5 Glass Electrolytes”
- DOI:10.1021/jacs.5c10564
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