ポイント
- 原子分解能電子顕微鏡法により、結晶粒界における拡散最前線の原子構造の直接観察に成功した。
- 粒界を拡散する原子が、結晶粒界の原子構造を変化させながら拡散することを初めて明らかにした。
- 電子顕微鏡法と理論計算による原子レベルでの拡散機構の理解に基づき、効率的で高性能な多結晶体材料の開発につながることが期待される。
東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構の幾原 雄一 東京大学特別教授(兼:東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 教授)、柴田 直哉 教授、フウ ビン 特任准教授、二塚 俊洋 特任研究員らのグループは、原子分解能電子顕微鏡法と理論計算(シミュレーション)を駆使することにより、原子が結晶粒界を拡散する際の新しいメカニズムを明らかにしました。
セラミックスを焼結する際には、さまざまな元素を添加することで、焼結の促進や、微細構造の制御が行われています。焼結の進行に伴い、添加元素が粒界を拡散することは知られていますが、これらの元素が粒界中のどの原子位置を通って拡散するのかについては、これまで明らかにされていませんでした。
本研究では、チタン(Ti)を添加したアルミナ(α-Al₂O₃)の結晶粒界を対象に、原子分解能走査透過型電子顕微鏡(STEM)と、エネルギー分散X線分光法(EDX)による原子分解能組成分析を組み合わせ、Ti原子が粒界を拡散する際にどのような原子位置を通過するのか、さらに拡散先端における粒界の原子構造がどのように変化するのかを解明することに成功しました。
解析の対象としたアルミナ粒界は非対称な原子構造を有していましたが、Tiが粒界を拡散し、その濃度が増加すると、粒界構造が対称構造へと変化することを見いだしました。この結果は、Tiの粒界拡散に伴って粒界構造が変化する「粒界相変態」が生じることを示しており、第一原理計算によってもその合理性が裏付けられました。
これらの成果は、セラミックスにおける最適な焼結条件の設定や、形成される微細構造の予測に新たな知見を与えるものであり、今後の材料設計に重要な指針を提供します。
本研究成果は2025年11月7日(英国時間)に、英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 基盤研究S(課題番号:JP22H04960)、基盤研究B(課題番号:JP25K01522)、基盤研究A(課題番号:JP25H00793)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「電子線照射を活用した原子分解能その場観察法の開発と材料研究への応用」(課題番号:JPMJPR23JB)、同 戦略的創造研究推進事業 ERATO「柴田超原子分解能電子顕微鏡プロジェクト」(課題番号:JPMJER2202)、文部科学省 マテリアル先端リサーチインフラ(課題番号:JPMXP1222UT246)、東京大学・日本電子産学連携室の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(802KB)
<論文タイトル>
- “Two-step grain boundary diffusion mechanism of a dopant accompanied by structural transformation”
- DOI:10.1038/s41467-025-65745-5
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