ポイント
- リン脂質が集合して作られる脂質膜は、膜たんぱく質を固定する足場材料として分子生物学研究で広く用いられ、その機能評価に貢献しています。特に膜結合たんぱく質の機能解明のためには、それを固定するチューブ状の足場材料が必要ですが、安定なリン脂質マイクロチューブ材料はこれまで構築されていませんでした。このことが、膜結合たんぱく質の機能解明におけるボトルネックとなっていました。
- 本研究では、膜相分離を起こすリン脂質膜上で、独自に開発したカチオン性ペプチド脂質(PCaL)を集合させることで、酸性・塩基性条件、高温、高塩濃度、高浸透圧条件下、夾雑(きょうざつ)環境下、光ピンセットによる物理的な引っ張りなど、いずれの過酷な環境下においても構造を維持する高い堅牢(けんろう)性を持つリン脂質マイクロチューブPMTPCaLの開発に成功しました。
- PMTPCaLを、膜結合たんぱく質の1つであるSNX1の足場として利用し機能評価を行った結果、SNX1は、細胞内を模倣した夾雑環境下において、非夾雑環境下に比べてより強く膜と結合することを明らかにしました。
- 膜結合たんぱく質は、膜の構造維持や膜輸送、シグナル伝達などの生命機能の根幹を成す機能に不可欠な生体分子で、その機能不全は、細胞の機能異常を引き起こすとともに、神経変性疾患の一因になっていると考えられています。高い堅牢性を持つPMTPCaLは、膜結合たんぱく質の機能や特性を、チューブ上(on tube)で、光ピンセットなどを用いて直接かつ定量的に評価するための革新的な材料として今後利用され、膜結合たんぱく質の機能解明と、さらにはそれが関連する疾患の理解と治療方法の開発に広く貢献すると期待されます。
東京農工大学 大学院工学府の石坂 龍(博士前期課程修了)、河北 杏樹(博士前期課程修了)、岩崎 彩花(博士前期課程)、吉澤 憲(博士後期課程修了)、同 大学院工学研究院 応用化学部門の村西 和佳 特任助教、内田 紀之 特任講師、村岡 貴博 教授、東京大学 大学院工学系研究科 応用化学専攻の上野 博史 講師、野地 博行 教授、国立がん研究センター 先端バイオイメージング研究分野の笠井 倫志 ユニット長、東京科学大学 総合研究院 脳統合機能研究センターの味岡 逸樹 教授、北里大学 大学院理学研究科 生物科学専攻の栗原 三朗(修士課程修了)、同大学 大学院未来工学研究科 生命データサイエンス専攻の野口 智希(修士課程)、同大学 未来工学部 データサイエンス学科の渡辺 豪 教授、東北大学 大学院生命科学研究科の横山 武司 助教、同大学 学際科学フロンティア研究所の金村 進吾 助教、奥村 正樹 国際卓越准教授の研究グループは、過酷な外部環境下において構造を安定に維持する堅牢性リン脂質マイクロチューブPMTPCaLの開発に成功しました。
PMTPCaLは、膜相分離を起こすリン脂質膜上でPCaLを集合させることで構築されました。PMTPCaLは、酸性・塩基性条件、高温、高塩濃度、高浸透圧条件下、夾雑環境下、光ピンセットによる物理的な引っ張りなどの過酷な環境下においても、極めて高い構造安定性を持ちます。PMTPCaLを膜結合たんぱく質の1つであるSNX1たんぱく質の足場として利用し、その吸着挙動を評価した結果、細胞内を模倣した夾雑環境下においては、非夾雑環境下に比べ、SNX1たんぱく質のリン脂質マイクロチューブに対する結合が増強されることを明らかにしました。この高い堅牢性を持つPMTPCaLは、将来的には、さまざまな膜結合たんぱく質の機能や特性をチューブ上(on tube)で、光ピンセットなどを用いて直接かつ定量的に評価するための革新的な材料として利用され、膜結合たんぱく質の機能解明に広く貢献すると期待されます。
本研究成果は2025年10月23日(現地時間)、アメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版で公開されました。
本成果は、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR2122、研究代表者:村岡 貴博)、同 戦略的創造研究推進事業 CREST(課題番号:JPMJCR19S4、研究分担者:村岡 貴博)、日本学術振興会 科学研究費助成事業 学術変革領域研究B(課題番号:JP21H05096、研究代表者:村岡 貴博)、同事業 基盤研究B(課題番号:JP25K01891、研究代表者:村岡 貴博)、同事業 基盤研究C(課題番号:JP23K04927、研究代表者:内田 紀之)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 官民による若手研究者発掘支援事業(課題番号:23W1M041、研究分担者:内田 紀之)、キャノン財団(村岡 貴博)、旭硝子財団(村岡 貴博、内田 紀之)、新化学技術推進協会(内田 紀之)、守谷育英会(内田 紀之)、田中貴金属記念財団(内田 紀之)、コーセーコスメトロジー研究財団(内田 紀之)、ロッテ財団(内田紀之)の支援を受けて得られました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.37MB)
<論文タイトル>
- “A Structurally Robust Phospholipid Microtube Constructed by Membrane Phase Separation as a Scaffold for On-Tube Characterization of Membrane-Bound Proteins”
- DOI:10.1021/jacs.5c13384
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