ポイント
- ノコギリカメムシのメス成虫の後脚にある特徴的な構造は“鼓膜器官”ではなく、特定の微生物を培養する“共生器官”であることを発見
- 低病原性の糸状菌を選択的に培養して産卵時に卵に塗布し、菌糸で覆うことにより寄生蜂から卵を守る
- 従来知られていなかった新たな防衛共生器官、共生菌の伝達行動、物理的な防衛共生メカニズムを解明
産業技術総合研究所 モレキュラーバイオシステム研究部門 バイオシステム多様性研究グループの森山 実 主任研究員、古賀 隆一 上級主任研究員、深津 武馬 首席研究員(筑波大学 生命環境系 連携大学院 教授を兼務)は、同大学 生命環境科学研究科(博士後期課程、研究当時)の西野 貴騎 元産総研技術研修員、森林研究・整備機構 森林総合研究所 関西支所 生物被害研究グループの向井 裕美 主任研究員らと共同で、また台湾中央研究院の棚橋 薫彦 研究員(元産総研特別研究員)らと協力して、メス成虫の後脚に昆虫の耳にあたる鼓膜器官があるといわれていたノコギリカメムシにおいて、その構造は実は聴覚器官ではなく、特定の糸状菌を選択的に培養する共生器官であることを発見しました。
さらに、その器官で培養された菌が、ノコギリカメムシの産卵時に寄生蜂から卵を守る役割を持つことを突き止めました。この共生器官は幼虫やオス成虫には存在せず、メス成虫の羽化時に、後脚の脛節(けいせつ)に扁平な楕円形構造として出現します。そこには約2000個の小孔があり、環境中に存在する冬虫夏草類に近縁な低病原性の糸状菌を選択的に培養する機能を持ちます。メス成虫は産卵時に後脚を巧みに用いて共生器官から菌を卵に接種して、卵表面を菌糸で覆うことにより、寄生蜂による寄生を物理的に防ぎます。
本研究により、過去の報告に記載されていたノコギリカメムシの“鼓膜器官”が、実は従来知られていなかった新たな“防衛共生器官”であることが判明しました。自然界の生物多様性から見いだされた新規な微生物共生系であり、共生の起源や進化を考える上で興味深い研究成果です。
なお、本研究成果の詳細は2025年10月17日(日本時間)に国際学術誌「Science」にオンライン掲載されました。
本研究開発は、科研費 学術変革領域研究(A)「共進化表現型創発」他、および科学技術振興機構(JST) ERATO 「深津共⽣進化機構プロジェクト」による⽀援を受けて実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.77MB)
<論文タイトル>
- “Defensive fungal symbiosis on insect hindlegs”
- DOI:10.1126/science.adp6699
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