理化学研究所,九州大学,科学技術振興機構(JST)

2025(令和7)年10月16日

理化学研究所
九州大学
科学技術振興機構(JST)

思い出を「選んで残す」メカニズムを解明

~記憶の「安定化スイッチ」として働く意外な細胞~

理化学研究所(理研) 脳神経科学研究センター グリア-神経回路動態研究チームの長井 淳 チームディレクター、出羽 健一 基礎科学特別研究員、加瀬田 晃大 研究パートタイマーⅠ(日本学術振興会 特別研究員 DC2)、九州大学 生体防御医学研究所の増田 隆博 教授らの共同研究グループは、「強い印象のある出来事はよく覚えている」「繰り返したことは忘れにくい」といった身近な現象について、その背後にある脳の仕組みが、神経細胞ではなく、その隙間を埋めるアストロサイトという意外な細胞によって支えられていることを発見しました。

脳は、神経細胞とそれ以外のグリア細胞で構成されています。長らくグリア細胞は神経細胞の隙間を埋めるだけの存在と考えられてきましたが、近年の研究により脳内の代謝や神経活動の調節など、多様な機能を担うことが明らかになっています。

今回、共同研究グループは、アストロサイトというグリア細胞の一種が、強い感情を伴う体験を、その後数日間にわたって分子レベルの「痕跡」として残し、2回目の体験時にそれを記憶として選び取り定着させる「安定化スイッチ」として働くことを初めて明らかにしました。

感情と記憶の結び付きは、うつや心的外傷後ストレス障害(PTSD)など多くの精神疾患と関係があります。本研究が明らかにした「記憶を選別し安定させる仕組み」は、「記憶を和らげる」あるいは「選んで残す」といった治療に応用できる可能性があり、医療や社会への波及効果も期待されます。

本研究成果は、科学雑誌「Nature」オンライン版(現地時間2025年10月15日付)に掲載されました。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業(研究代表者:長井 淳、JPMJFR2249)(研究代表者:伊藤 美菜子、JPMJFR210I)(研究代表者:笠井 淳司、JPMJFR2061)、同 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(研究代表者:坂本 雅行、JPMJPR1906)、同 戦略的創造研究推進事業 ACT-X(研究代表者:横山 達士、JPMJAX211K)などの支援を受けて行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“The astrocytic ensemble acts as a multiday trace to stabilize memory”
DOI:10.1038/s41586-025-09619-2

<お問い合わせ先>

(英文)“Astrocytes are superstars in the game of long-term memory”

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