ポイント
- IoT/AI社会の進展により情報機器の消費電力増大が世界的な課題となる中、従来の磁気ランダムアクセスメモリー(MRAM)では情報書き込み時のエネルギーロスが問題でした。
- MRAMの量産にも用いられる生産性の高い技術であるオンアクシス・スパッタリング法を用いて超省エネメモリーの材料となる高品質な磁性絶縁体の単結晶薄膜を作製し、その電流誘起磁化反転(情報書き込み)に世界で初めて成功しました。
- 本成果は、次世代メモリー材料の実用化を大きく加速させるものです。将来的に、情報機器の大幅な省エネルギー化へ貢献すると期待されます。
情報社会の発展に伴い、電子機器の消費電力削減は喫緊の課題です。電源を切っても情報が消えないMRAMは、その切り札として期待されていますが、情報書き込み時のエネルギー効率の向上が求められていました。新しい磁性絶縁体であるツリウム鉄ガーネット(TmIG)は低消費電力かつ高速制御可能なため世界中で研究が進められている注目材料ですが、従来の作製法は量産に不向きな特殊な手法に限られていました。
九州大学 大学院システム情報科学研究院の山下 尚人 准教授、チャルマース工科大学のロゼル・ンガロイ 氏(博士課程学生)、サロジ・P. ダッシュ 教授、大邱慶北科学技術院(DGIST)のユ・チョンヨル 教授、信州大学の李 垂範 助教らの国際共同研究グループは、この課題を解決する新たな製造プロセスを開発しました。MRAMの量産にも用いられる汎用(はんよう)的な技術であるオンアクシス・スパッタリング法を用いて高品質なTmIG薄膜を作製、さらに白金(Pt)層を堆積させて微小な電流を流すだけで磁石の向き(メモリー情報)を反転させることに成功しました。この情報書き込み効率は従来法で作製したものに匹敵し、汎用的な技術で高品質な磁性絶縁体の単結晶薄膜を作製できることを示しました。
今回の成果は、高性能な磁性絶縁体メモリー技術を、基礎研究から応用研究へと橋渡しする重要な一歩です。新たなスピントロニクスデバイスの開発研究を加速し、持続可能な情報社会の実現に貢献することが期待されます。
本研究成果は、英国の雑誌「npj Spintronics」誌に2025年10月10日(金)(日本時間)に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ACT-X「スピン流を用いた磁壁カイラリティの電気的検出」(JPMJAX23KJ)、同 先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)「最先端原子層プロセス国際共同研究ネットワークの構築」(JPMJAP2321)、日本学術振興会(JSPS) 科研費 (JP22K14292)、国際協力機構、日本板硝子材料工学助成会、村田学術振興・教育財団、スカンジナビア・ニッポン ササカワ財団、R1 TECHNOLOGIES合同会社、European Innovation Council(EIC)project 2DSPIN-TECH (No.101135853)の支援を受けたものです。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.19MB)
<論文タイトル>
- “Deterministic spin-orbit torque switching of epitaxial ferrimagnetic insulator with perpendicular magnetic anisotropy fabricated by on-axis magnetron sputtering”
- DOI:10.1038/s44306-025-00105-z
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