東京大学,科学技術振興機構(JST),名古屋大学

2025(令和7)年10月10日

東京大学
科学技術振興機構(JST)
名古屋大学

キラルイオンゲート技術を世界初実証

~分子対称性によるトポロジカル表面磁性の超省電力制御に成功~

ポイント

東京大学 生産技術研究所の松岡 秀樹 特任助教と金澤 直也 准教授らの研究グループは、名古屋大学 大学院理学研究科の須田 理行 教授、京都大学 大学院工学研究科の関 修平 教授、東京大学 大学院工学系研究科の岩佐 義宏 教授(研究当時)および 同大学 国際高等研究所 東京カレッジの十倉 好紀 卓越教授と共同で、キラルな分子構造を持つイオン液体を用いた2次元磁性表面の制御手法を開発しました。

近年、スピントロニクスにおける新たな潮流として、分子や固体結晶のキラリティを活用するキラルスピントロニクスが注目を集めています。本研究では、キラルなイオン液体を電気二重層トランジスタ(EDLT)のゲート媒質として用いることで、分子のキラル性と電界効果を融合した新たな磁性制御手法「キラルイオンゲート」を提案・実証しました。具体的には、制御の対象として表面のみ強磁性を示すFeSi(111)エピタキシャル薄膜を用い、アキラルおよびキラルなイオン液体によるEDLT構造を作製し、その磁気輸送特性を比較しました。両デバイスに共通して異常ホール効果(入力電流に垂直な方向に出る磁化に比例した電圧、磁化特性の評価に使う)および保磁力(磁化をゼロにするために必要な磁場の強さ、磁石の強さの評価特性の1つ)の静電的な変調が観測される一方で、キラルなイオン液体を用いた場合に限り、ゼロ磁場下での磁気ドメインの偏極(磁化の向きが特定方向に偏っている状態)が現れることが確認されました。この結果は、分子キラリティによって磁性表面へ実効的な有効磁場が誘起されることを示唆します。キラルイオンゲートは、従来の電界制御にないキラリティ起源の磁気応答を引き出す手法であり、キラルスピントロニクスデバイスへの波及が期待されます。

本研究成果は、2025年10月10日付(米国東部夏時間)で、「Nano Letters」に掲載されました。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業「新世代コンピューティング素子のためのスキルミオン物質基盤創成(課題番号:JPMJFR2038)」、「カイラルイオントロニクスによる電磁交差物性創発(課題番号:JPMJFR221V)」、同 戦略的創造研究推進事業 CREST「Giant CISS物質:界面陽電子・電子の全運動量制御(課題番号:JPMJCR23O3)」、日本学術振興会(JSPS) 科研費「ファンデルワールス超薄膜・界面設計に基づく創発二次元物性開拓(課題番号:JP21K13888)」、「接合界面電子状態制御による新規トポロジカル磁気粒子の創出(課題番号:JP23H04017)」、「磁性伝導体における新しい創発電磁誘導(課題番号:JP23H05431)」、「スピン偏極陽電子ビームを基軸とする新しいサイエンスの展開(課題番号:JP23H05462)」、「ありふれた元素の化合物に潜んだトポロジカル表面新物質相の開拓(課題番号:JP24H00417)」、「インターカレーション技術を用いた磁性の制御と新規開拓(課題番号:JP24H01212)」、「表面非対称電子軌道の制御による非相反伝導特性の最大化(課題番号:JP24H01652)」、「トポロジカルスピン粒子における非線形ホール効果の観測とスピントロニクス応用(課題番号:JP25H02126)」、「キラルファンデルワールス超格子:キメラ準粒子創出のためのプラットフォームの構築(課題番号:JP25H02141)」、「界面キラリティ反転を利用した電圧反転型超伝導ダイオードデバイスの創製(課題番号:JP25K22219)」、三菱財団、住友財団、田中貴金属記念財団の支援により実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Electric-field control of two-dimensional ferromagnetic properties by chiral ionic gating”
DOI:10.1021/acs.nanolett.5c03884

<お問い合わせ先>

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