ポイント
- 脂肪滴で脂質の加水分解が進行すると蛍光寿命が変化する蛍光プローブ(特定の物質や化学反応を蛍光として検知できる分子)を開発し、この特性を利用して脂質代謝を解析する新たな技術を確立した。
- 肝臓がん細胞では、脂肪滴ごとに加水分解活性が不均一であることを見いだし、その違いは中性脂肪を分解する酵素(ATGL)に起因することを明らかにした。
- 脂肪滴選択的なオートファジー(リポファジー)は、加水分解が進行した脂肪滴に対して起こることを明らかにした。
名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)・学際統合物質科学研究機構(IRCCS)の山口 茂弘 教授、岐阜大学 糖鎖生命コア研究所(iGCORE)の多喜 正泰 教授らの研究グループは、脂肪滴に特異的に局在する環境応答型蛍光プローブを開発し、脂質の加水分解の進行度を蛍光寿命の違いとして可視化する新たな解析技術を確立しました。
脂質代謝異常は、がん、糖尿病、肥満、動脈硬化など多様な疾患と密接に関連しています。脂質を蓄積する脂肪滴は、脂質代謝の中核を担う細胞内小器官(オルガネラ)であり、その動態を明らかにすることは疾患の理解に不可欠です。蛍光イメージングは脂肪滴動態の解析において強力な手法であり、脂肪滴を染色する蛍光プローブはこれまでも多く開発されてきました。しかし、これらは主として脂肪滴の大きさや挙動を可視化するにとどまり、脂肪滴内部における脂質の代謝状態をリアルタイムに捉えることは困難でした。
今回開発したプローブは、脂肪滴の主要構成脂質であるトリグリセリド(TAG)と、TAGが加水分解されて生成するジグリセリド(DAG)の割合に応じて蛍光寿命が変化する特性を示します。肝臓がん細胞内の脂肪滴を標識し、蛍光寿命イメージング顕微鏡(FLIM)で観察したところ、蛍光寿命に不均一性が認められ、脂肪滴ごとに加水分解の進行度が異なることを明らかにしました。さらに本技術を活用することで、脂肪滴選択的オートファジー(リポファジー)に先行して脂肪滴分解リパーゼによる脂肪分解(リポリシス)が起こることを解明しました。
本研究成果は、2025年10月9日(日本時間)に、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載されました。
本成果は、以下の事業・共同利用研究施設による支援を受けて行われました。
科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR21O5)
研究プロジェクト「励起ダイナミクス制御に基づく光機能性ヘテロπ電子系の創製」
研究代表者 山口 茂弘
日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤B(23H02105)
研究プロジェクト「生細胞1脂肪滴解析によるコレステロール輸送機構の解明」
研究代表者 多喜 正泰
日本学術振興会 科学研究費補助金 学術変革領域研究(A)(25H01261)
研究プロジェクト「高度π分子体への環境応答性付与に基づく蛍光イメージングへの展開」
研究代表者 山口 茂弘
日本学術振興会 科学研究費補助金 国際共同研究加速基金(22K21346)
研究プロジェクト「動的元素効果デザインによる未踏分子機能の探究」
研究代表者 山口 茂弘
日本学術振興会 科学研究費補助金 学術変革領域研究(A)(24H02260)
研究プロジェクト「データ融合シミュレーションによるタンパク質の動的構造解析」
研究代表者 Florence Tama
日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤B(24K02208)
研究プロジェクト「脂肪滴の細胞質および核内での生理機能解明」
研究代表者 大崎 雄樹
日本学術振興会 科学研究費補助金 学術変革領域研究(22H04926)
研究プロジェクト「先端バイオイメージング支援プラットフォーム」
研究代表者 鍋倉 淳一
上原記念生命科学財団 特定研究助成
研究プロジェクト「脂質代謝イメージングを用いた進行期卵巣癌の予後予測」
研究代表者 多喜 正泰
武田科学振興財団
研究プロジェクト「脂肪滴による核内蛋白質機能制御機構の解明」
研究代表者 大崎 雄樹
代謝異常治療研究基金
研究プロジェクト「核膜変形機構と核内脂質代謝の細胞老化への影響の解明」
研究代表者 大崎 雄樹
風戸研究奨励会
研究プロジェクト「脂肪滴の核内での形成機構と生理機能の形態学的解析」
研究代表者 大崎 雄樹
北海道B型肝炎訴訟オレンジ基金
研究プロジェクト「核内脂肪滴の肝疾患における意義」
研究代表者 大崎 雄樹
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(999KB)
<論文タイトル>
- “Single-Cell Fluorescence Analysis of Lipid Droplet Compositional Dynamics during Triacylglycerol Catabolism”
- DOI:10.1021/jacs.5c11742
<お問い合わせ先>
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<JST事業に関すること>
安藤 裕輔(アンドウ ユウスケ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K's五番町
Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066
E-mail:crestjst.go.jp
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<報道担当>
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岐阜大学 総務部 広報課 広報グループ
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科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
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<ITbMに関すること>
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名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM) リサーチプロモーションディビジョン
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