東京大学,科学技術振興機構(JST)

2025(令和7)年10月2日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

有機半導体で従来比10倍となる100cm2V-1s-1超の移動度を達成

~熱振動を制御した分子設計最適化と次世代デバイス応用に期待~

ポイント

東京大学 大学院新領域創成科学研究科の竹谷 純一 教授、古川 友貴 大学院生、髙柳 英明 特任教授らの研究グループは、有機半導体単結晶において、100cm2V-1s-1(100平方センチメートル パー ボルト秒)を超えるキャリア移動度の実測に世界で初めて成功しました。

有機半導体単結晶は分子同士が弱いファンデルワールス力で結びついているため、熱振動が大きく、その結果キャリア輸送は熱振動に起因する散乱に強く制限されます。実際に、室温下において有機半導体単結晶のキャリア移動度は10cm2V-1s-1程度にとどまります。熱振動の抑制は有機半導体の輸送物性における重要課題であり、抑制によって移動度がどこまで向上するかは基礎物性研究の中心的テーマの1つです。本研究グループは、有機半導体単結晶を一方向から圧縮した状態で高密度な電荷キャリア注入を行い、低温下で有機半導体分子の熱振動を抑制することで、2次元正孔ガスが100cm2V-1s-1を超える高いキャリア移動度を示すことを明らかにしました。圧縮歪み(ひずみ)と低温により熱振動を大幅に抑制することで100cm2V-1s-1を超える移動度を実現できることを見いだしました。

有機半導体は化学合成により分子形状を自由にデザインできるという特長があります。本研究成果は、分子構造を熱振動の小さい形態へと最適化することで、キャリア移動度がさらに向上する可能性を示しています。今後、高性能電子デバイスへの応用研究や、高移動度2次元正孔ガス(2DHG)を用いた量子エレクトロニクスなどの基礎研究が加速することが期待されます。

本研究成果は、2025年10月2日(日本時間)付で「Science Advances」に掲載されました。

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 CREST「電子閉じ込め分子の二次元結晶と汎用量子デバイスの開発(グラント番号:JPMJCR21O3)」、同 創発的研究支援事業「コンデンスドプラスチックの電子論と機能性の創成(グラント番号:JPMJFR2020)」、JSPS 科学研究費助成事業「有機半導体二次元電子ガスの電子相制御と量子エレクトロニクス(課題番号:22H04959)」、「有機半導体を用いたスピンオービトロニクスの創成(課題番号:20H00387)」の支援により実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Hall mobility exceeding 100 cm2V-1s-1 observed in strained organic semiconductors”
DOI:10.1126/sciadv.aea1634

<お問い合わせ先>

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