ポイント
- 有用な量子コンピューターを実現するためには、ノイズの影響を取り除くことが不可欠で、特に「魔法状態」と呼ばれる量子状態のノイズを減らす「魔法状態蒸留」という処理が中心的に使われます。本研究では、魔法状態蒸留でノイズをどれだけ減らしても、そのためのコストを一定の定数以下に抑えることが可能であることを初めて明らかにしました。
- 従来の方法では、ノイズを減らそうとすればするほど、際限なくコストが増大してしまうという問題がありました。この問題を回避するために、高いノイズ除去能力とコスト効率を両立できる新しい量子エラー訂正符号を作り、コストの増加を防ぎながらノイズを除去できる方法を開発しました。
- 今回の成果は、こうしたコスト増加を防ぐ設計ができることを初めて示したものであり、今後の量子コンピューター開発に新しい可能性や方向性をもたらすことが期待されます。
東京大学 大学院情報理工学系研究科の山崎 隼汰 准教授らの研究グループは、マサチューセッツ工科大学のアダム・ウィルズ 大学院生、フォックスコンの謝 明修 博士と共同で、有用な量子コンピューターの実現に欠かせない「魔法状態」のノイズを効率よく取り除く新しい方法を開発しました。この方法では、ノイズを取り除く「魔法状態蒸留」というプロセスのコストを一定の定数以下に抑えながら、必要に応じてノイズをいくらでも小さくすることができます。
魔法状態蒸留のコストは、大規模な量子コンピューターの開発における大きな障壁の1つでした。これまでの魔法状態蒸留の方法では、ノイズをより減らそうとするほど、必要となるコストが際限なく増えてしまうという問題がありました。今回の研究では、高いノイズ除去能力とコスト効率の両方を実現できる新しい魔法状態蒸留の仕組みを作り、どれだけノイズを減らしてもコストの増加を防ぐことができることを初めて明らかにしました。
量子コンピューターで有用な計算を行うには、ノイズの影響を抑えて正確に計算を実行する仕組みが不可欠です。本研究の成果は、これまでの量子コンピューター開発で大きな壁だった魔法状態蒸留のコストの増大を回避する新しい設計指針を示したものであり、今後の量子コンピューターの実現に向けた研究開発において、従来の限界を超える省コストでスケーラブルな設計への道を切り開くものです。
本成果は現地時間2025年9月16日付で「Nature Physics」に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(課題番号:JPMJPR201A、JPMJPR23FC)、日本学術振興会(JSPS) 科研費(課題番号:JP23K19970)、文部科学省 光・量子飛躍フラッグシッププログラム(MEXT Q-LEAP)(課題番号:JPMXS0118069605、JPMXS0120351339)の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
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<論文タイトル>
- “Constant-Overhead Magic State Distillation”
- DOI:10.1038/s41567-025-03026-0
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