ポイント
- 原子価の異なる2種類の元素を同時に置換する新手法「二重異原子価元素置換(double hetero-valent elemental substitution)」を導入し、3元系Ga-Pt-Gd 2/1近似結晶から4元系Ga-Au-Pt-Gd 1/1近似結晶の合成に成功しました。これにより、平均価電子数(e/a)を1.92~1.60の範囲で系統的に制御することが可能となりました。
- 特にe/a=1.83では、5テスラの磁場下で等温磁気エントロピー変化 ΔSM=-8.7 J/K mol-Gdを記録しました。これは準結晶および近似結晶材料として史上最高値です。
- この磁気熱量効果は、8.7~14.9ケルビンの低温域で発現し、極低温用の断熱冷却システムや、液体ヘリウム温度(マイナス269度、約4ケルビン)以下のサブケルビン領域での冷却技術への応用が期待されます。
東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科のFarid Labib(ファリド・ラビブ) 研究員、田村 隆治 教授らの研究グループは、ガリウム(Ga)-白金(Pt)-ガドリニウム(Gd) 2/1近似結晶において、異なる原子価を持つ2種類の元素を同時に置換する「二重異原子価元素置換(double hetero-valent elemental substitution)」という新たな手法を用いて、GaとPtを金(Au)で置換したTsai型Ga-Au-Pt-Gd 1/1近似結晶を合成し、平均価電子数(e/a)を系統的に変化させることに成功しました。また、合成した化合物が特定のe/aで優れた磁気熱量効果を示すことを明らかにしました。
e/aは、物質の結晶構造と磁気特性を支配する重要なパラメーターです。準結晶、近似結晶の多くは、固有の化学量論性によりe/a=2.00付近で安定化し、組成調整の自由度が著しく制限されています。そのため、これらの材料は幾何学的フラストレーションや磁気相互作用の競合の結果、スピングラス的挙動を示すことが多く、磁気特性の系統的な制御が困難でした。近年、e/aに着目した磁気特性の制御手法が注目されているものの、金属間化合物のとりうる組成領域を拡張することは重要な課題として残されていました。本研究では、2種類の異原子価元素を同時に置換する「二重異原子価元素置換」という手法を用いて、元素比率を系統的に変化させることにより、e/aを制御可能にしました。
本研究では、Ga52Pt34Gd14 2/1近似結晶を出発組成とし、e/aを1.92~1.60まで系統的に制御したさまざまな組成のTsai型Ga-Au-Pt-Gd 1/1近似結晶の合成に成功しました。また、これらの近似結晶は全て同様の結晶構造をとるのに対し、磁気特性については、特定のe/aでスピングラスから強磁性へと劇的に変化することが明らかとなりました。等温磁気エントロピー変化(ΔSM)については、e/a=1.83において値が大幅に向上し、5テスラ磁場下でΔSM=-8.7 J/K mol-Gdという準結晶、近似結晶材料として史上最高値を達成しました。この値は主要な希土類の磁気熱量材料に匹敵する性能です。磁気転移温度は8.7~14.9ケルビンの範囲にあり、これらの材料は断熱冷却システムや極低温領域での冷却装置への応用が期待されます。
本研究成果は、現地時間2025年8月27日に国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(JP19H05817、JP19H05818、JP19H05819、JP21H01044、JP24K17016)、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR22O3)による助成を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.31MB)
<論文タイトル>
- “Derivation of a non-stoichiometric 1/1 quasicrystal approximant from a stoichiometric 2/1 quasicrystal approximant and maximization of magnetocaloric effect”
- DOI:10.1021/jacs.5c05947
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