ポイント
- 細胞表面の受容体の取り込みを担うアレスチンが機能性膜脂質ホスファチジルイノシトール4,5-2リン酸(PIP2)と結合する新たな部位を見いだしました。
- アレスチンとPIP2の結合により、細胞膜の微小領域が形成され、ここに受容体を局在させることにより、効率的に細胞内へ受容体を取り込む機構を解明しました。
- この成果は、PIP2とアレスチンの結合を標的とすることで、過剰な細胞内情報伝達が原因となる疾患に対する新たな創薬戦略につながることが期待されます。
細胞はGたんぱく質共役型受容体(GPCR)と呼ばれる細胞表面のセンサーたんぱく質を用いて、外界からの情報分子を細胞内に伝えます。この情報伝達の効率を調節する重要な仕組みの1つに、GPCRの細胞内への取り込み(内在化)による情報伝達の収束があり、アレスチンというたんぱく質がその役割を担います。アレスチンがGPCRと結合する際に、機能性膜脂質であるPIP2が関わることが報告されていますが、その詳細な分子機構は不明な点が多く残されていました。
東北大学 大学院薬学研究科の倉本 律輝 大学院生、井上 飛鳥 教授(京都大学 大学院薬学研究科 教授を兼務)らの研究グループは、アレスチンがPIP2と結合する新たな部位を見いだし、この結合によってGPCRをPIP2が多く含まれる細胞膜の微小領域に集積させることで、GPCRの内在化を促進させることを明らかにしました。本研究の知見は特定のたんぱく質と膜脂質を標的とした創薬の新たな可能性を提唱します。
本研究成果は、2025年8月6日付け(日本時間)で科学誌「Nature Chemical Biology」に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会(JP21H04791、JP21H05113、JP24K21281、JPJSBP120213501、JPJSBP120218801、JP24K01982、JP24H01266)、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業(JPMJFR215T)、同 ムーンショット型研究開発事業(JPMJMS2023)、同 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR20EF)、同 未来社会創造事業(JPMJMI22H5)、同 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)(JPMJSP2114)、日本医療研究開発機構(JP22ama121038、JP22zf0127007)、武田科学振興財団、上原記念生命科学財団などの支援を受けて実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(981KB)
<論文タイトル>
- “Membrane-domain compartmentalization of active GPCRs by β-arrestins through PtdIns(4,5)P2 binding”
- DOI:10.1038/s41589-025-01967-4
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