理化学研究所(理研) 環境資源科学研究センター 植物免疫研究グループの白須 賢 グループディレクター(環境資源科学研究センター 副センター長)、門田 康弘 専任研究員、飯野 絵里香 研修生(研究当時)、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) 植物防疫研究部門 基盤防除技術研究領域の植原 健人 研究領域長らの国際共同研究グループは、植物が植物寄生線虫のような動物型の病原体を分子レベルで認識する仕組みを初めて明らかにしました。
本研究成果は、世界中で甚大な農業被害を引き起こしている植物寄生線虫に対する免疫メカニズムの理解を深めるとともに、広範な病原体に抵抗性を持つ作物の開発に向けた新たな基盤の確立に貢献すると期待されます。
今回、国際共同研究グループは、植物寄生線虫が植物に寄生する際に分泌する酵素「トレハラーゼ」の一部(ペプチド)を、植物が“危険サイン”として認識し、免疫反応を誘導する仕組みを解明しました。また、このサインを受け取るために植物が用いている受容体キナーゼ(リン酸化酵素)も同定しました。さらに、病原性糸状菌やアブラムシなどの害虫が持つトレハラーゼにも、同様のペプチドが存在し、植物がこれらにも同じ仕組みで反応することが分かりました。これらの成果から、植物が植物寄生線虫や病原性糸状菌、害虫など異なる病原体から放出される似た構造のペプチドを共通の危険サインとして認識し、防御反応を起こす仕組みが明らかになりました。
本研究成果は、科学雑誌「Science Advances」オンライン版(現地時間2025年7月30日付)に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 基盤研究(S)「植物と病原体の攻防における分子機構(研究代表者:白須 賢)」、同 基盤研究(A)「アポプラストにおける植物-病原体相互作用(研究代表者:白須 賢)」、同 基盤研究(B)「植物による線虫認識機構の解明(研究代表者:門田 康弘)」「統合ゲノミクスによる抗線虫活性を示す微生物群集のプロファイリングと農地での再構築(研究代表者:門田 康弘)」「植物の膜貫通型受容体(様)キナーゼを介した植物寄生線虫の認識機構の解明(研究代表者:門田 康弘)、同 若手研究「エフェクターの網羅的解析による植物寄生線虫の感染戦略の解明(研究代表者:佐藤 一輝)」「転写後制御のハイジャックによる植物寄生線虫の感染戦略の解明(研究代表者:佐藤 一輝)」、同 特別研究員奨励費「線虫に対する植物免疫機構の解明とその応用(研究代表者:飯野 絵里香)」、同 挑戦的研究(萌芽)「アグロバクテリウムのステルス化による植物の形質転換効率の向上(研究代表者:門田 康弘)」、文部科学省 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)「不均一環境変動に対する植物のレジリエンスを支える多層的情報統御の分子機構(研究領域代表者:松下 智直)」の計画研究「不均一土壌環境に応答した寄生植物の感染統御機構(研究代表者:吉田 聡子)」、科学技術振興機構(JST) 革新的GX技術創出事業(GteX)「GXを駆動する微生物・植物「相互作用育種」の基盤構築(研究代表者:野村 暢彦、JPMJGX23B2)」、同 戦略的創造研究推進事業 ACT-X「植物免疫誘導性の抗線虫物質とその生合成遺伝子の同定(研究代表者:佐藤 一輝、JPMJAX2227)」、同 先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)「植物の誘導リプログラミングに立脚した新規バイオエコノミー基盤の創出(研究代表者:杉本 慶子、JPMJAP2306)」、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 次世代農林水産業創造技術「持続可能な農業生産のための新たな総合的植物保護技術の開発(研究チームリーダー:植原 健人、研究代表者:後藤 千枝)」、RIKEN TRIPユースケースフィールドオミックスによる支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
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<論文タイトル>
- “A trehalase-derived MAMP triggers LecRK-V-mediated immune responses in Arabidopsis”
- DOI:10.1126/sciadv.adv8896
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