ポイント
- ATP合成酵素を人為的に設計・改変し、これまでに報告されている自然界の酵素の最高値を上回るエネルギー変換機能(H+/ATP比)を達成。
- 改変型酵素は、通常ATP合成できないほど低いプロトン駆動力でもATPを合成できることを実証。
- 本成果は、生体内エネルギー変換機能の向上を可能にする新たな設計指針を示し、将来的な細胞工学やバイオものづくりへの応用が期待される。
東京大学 大学院工学系研究科の上野 博史 講師、野地 博行 教授らの研究グループは、千葉大学 大学院理学研究院の村田 武士 教授、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所の千田 俊哉 教授、安達 成彦 特任准教授(研究当時、現:筑波大学 生存ダイナミクス研究センター 准教授)との共同研究により、生物の生命活動に必須なATPを作る酵素「ATP合成酵素」を人工的に改変し、これまで報告されている自然界に存在するどの酵素よりも高いエネルギー変換機能を持つATP合成酵素の開発に成功しました。この改変型ATP合成酵素は、ATP合成を駆動するプロトン駆動力が極めて小さい環境でもATPを合成できることが確認されました。これは、通常1つしかない酵素内の「プロトンの通り道」を3つに増やすという新しい分子設計によって世界で初めて実現されたものです。本研究により、生体内でのエネルギー変換メカニズムに新たな視点がもたらされ、将来的には細胞工学やバイオものづくりへの応用展開も期待されます。
本研究成果は、2025年7月3日(英国夏時間)に「Nature Communications」に掲載されました。
本研究は、科研費 新学術領域研究(No.JP21H00388)、同 挑戦的研究(萌芽)(No.JP23K18092)、同 基盤S(No.JP19H05624)、基盤B(No.JP24K01987)、ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)(No.RGP0054/2020)、創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業 創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS:JP23ama121013、JP21am0101071)、科学技術振興機構(JST) 先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)「日英共同による人工光合成細胞システム開発」(研究代表者:野地 博行、No.JPMJAP24B5)の支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(656KB)
<論文タイトル>
- “Engineering of ATP synthase for enhancement of proton-to-ATP ratio”
- DOI:10.1038/s41467-025-61227-w
<お問い合わせ先>
-
<研究に関すること>
野地 博行(ノジ ヒロユキ)
東京大学 大学院工学系研究科 教授
Tel:03-5841-7252
E-mail:hnojig.ecc.u-tokyo.ac.jp
-
<JST事業に関すること>
荒川 敦史(アラカワ アツシ)
科学技術振興機構 国際部 先端国際共同研究推進室
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K's五番町
Tel:03-6261-1994 Fax:03-5214-7379
E-mail:aspirejst.go.jp
-
<報道担当>
東京大学 大学院工学系研究科 広報室
Tel:03-5841-0235
E-mail:kouhoupr.t.u-tokyo.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:jstkohojst.go.jp
千葉大学 広報室
Tel:043-290-2018
E-mail:koho-presschiba-u.jp
筑波大学 広報局
Tel:029-853-2040
E-mail:kohosituun.tsukuba.ac.jp