東京科学大学,早稲田大学,山形大学,,科学技術振興機構(JST)

2025(令和7)年6月30日

東京科学大学
早稲田大学
山形大学
科学技術振興機構(JST)

多孔性結晶中のNaイオンの高速拡散機構を新たに提唱

~次世代ナトリウムイオン電池の新規正極の開発を加速~

ポイント

東京科学大学(Science Tokyo) 総合研究院 化学生命科学研究所の館山 佳尚 教授、早稲田大学 先進理工学研究科の伊藤 暖 大学院生(博士後期課程3年)らは、スーパーコンピューター「富岳」を用いた高精度計算により、Naイオン(Na+)電池の有望な電極材料であるプルシアンブルー(PB)結晶におけるNa+の拡散機構とPB結晶の動的な無ひずみ性が室温以下の高速拡散に重要であることを提唱しました。これは「大きい孔が拡散に有利」という典型的な考え方を書き換え、また開発競争が加速するNaイオン電池の正極材料設計指針を飛躍的に前進させる成果です。

近年、資源制約フリーなNaイオン電池の研究が著しく加速しており、電池性能を決定づける正極材料の性能向上は重要な課題となっています。その解決法の1つとしてPB正極の利用が注目を集めていますが、PB正極の充放電速度向上の鍵となるNa+拡散の観測・制御は難しく、PB正極の材料設計の課題となっていました。

本研究では、スーパーコンピューター「富岳」などを利活用することで、温度効果も含めた高精度な原子レベルの計算、第一原理分子動力学計算(FPMD)を世界に先駆けて実行しました。その結果、Li+、Na+、K+の拡散特性の比較を通して、Na+が室温以下でも高い拡散係数を維持すること、その要因としてPB結晶の動的な無ひずみ性が重要であることを示しました。得られた知見は、一般の多孔性結晶内のイオン拡散の基礎学理に新たな視点を与えるものであると同時に、室温以下で優位に駆動するNaイオン電池の材料開発にも大きく貢献するものといえます。

本研究の成果は、米国化学会が出版する学術雑誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版に2025年6月30日付(現地時間)で掲載されました。

本研究は、科学技術振興機構(JST) GteX(革新的GX技術創出事業)「資源制約フリーなナトリウムイオン電池の開発」(JPMJGX23S4)、先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)「分散型国際ネットワークが実現する基盤蓄電技術革新とネットゼロ社会」(JPMJAP2313)、および戦略的創造研究推進事業 CREST「分子結晶全固体電池の創製」(JPMJCR22O4)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP24KJ2098、JP24H02203)、文部科学省 スーパーコンピュータ「富岳」成果創出加速プログラム「物理-化学連携による持続的成長に向けた高機能・長寿命材料の探索・制御」(JPMXP1020230325)の支援を受けて行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Dissimilar Diffusion Mechanisms of Li+, Na+, and K+ Ions in Anhydrous Fe-Based Prussian Blue Cathode”
DOI:10.1021/jacs.5c05274

<お問い合わせ先>

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