NIMSは、材料にあらかじめ疲労変形を与えると、かえって疲労限度が向上する現象を見いだしました。さらに、この発見に基づいた新手法「予疲労トレーニング」を開発し、高強度鋼のき裂の発生を抑えることで、疲労限度を2倍化することに成功しました。予疲労トレーニングは、焼き戻し熱処理とは異なり引張強度をほとんど低下させずに疲労限度を向上させられるため、従来より優れた強化手法としての応用が期待されます。
本研究グループは、引張強度1.6ギガパスカルの“焼き入れまま”マルテンサイト鋼に対して、あらかじめ試料に疲労変形を加える「予疲労トレーニング」を適用することで、引張強度をほとんど低下させず疲労限度を2倍化し、“頭打ち”を打破することに成功しました。この現象を詳細に分析した結果、高強度鋼の疲労き裂発生の支配要因は、結晶粒界での弾性ミスフィット(荷重方向に生じるひずみの大きさの不整合)であることを明らかにし、従来材料を壊れやすくするとされてきた疲労変形が実は疲労き裂発生を抑制することを世界で初めて示しました。
本成果は、2025年6月30日(現地時間)に「Advanced Science」誌に掲載されました。
本研究は、NIMS構造材料研究センター 鉄鋼材料グループの岡田 和歩 主任研究員、津﨑 兼彰 元フェロー、仲川 枝里 氏、柴田 曉伸 上席グループリーダーからなる研究チームによって、JST 戦略的創造研究推進事業 ACT-X「トランススケールな理解で切り拓く革新的マテリアル」領域(課題番号:JPMJAX23D5)の一環として行われました。
<プレスリリース資料>
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<論文タイトル>
- “Fatigue limit doubling in high-strength martensitic steel through crack embryo engineering–cyclic-training-driven self-optimization”
- DOI:10.1002/advs.202504165
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