ポイント
- 生命維持に不可欠な代謝産物である「S-アデノシルメチオニン(SAM)」の関連代謝産物のレベルは、飢餓状態でも安定していることを見いだしました。
- 細胞質に存在するSAM消費酵素グリシンN-メチルトランスフェラーゼ(Gnmt)がSAM産生阻害時に、核内のユビキチン・プロテアソームシステム(UPS)経路で分解されることを発見しました。
- 本研究は、飢餓などの栄養不足に対する新たな介入戦略の足がかりになり得ます。
変化を網羅的に捉えられるようになった近年の生命科学において、大事だからこそ安定的に保たれる、「見かけ上、変化がない因子」は見過ごされることがあります。
東北大学 加齢医学研究所の樫尾 宗志朗 助教(研究当時:東京大学 大学院薬学系研究科 助教)と、基礎生物学研究所の三浦 正幸 所長(研究当時:東京大学 大学院薬学系研究科 教授)の研究グループは、栄養不足や代謝産物の産生阻害といった厳しい環境下でも、生命維持に不可欠な代謝物質「S-アデノシルメチオニン(SAM)」の量を安定的に保つ仕組みを明らかにしました。本研究は、生命を支える代謝の恒常性メカニズムを解明し、そのバランスが崩れる代謝破綻に対する新たな介入戦略の開発につながる成果です。
本成果は2025年6月24日(現地時間)、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「代謝レジリエンスと破綻から識る生命力」(JPMJPR24N4)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費) 若手研究「メタボライトと神経細胞を基軸とした遠隔的組織修復制御機構の解明」(21K15100)、基盤研究(C)「代謝バッファリングを司るタンパク質細胞内局在と分解制御機構の解明」(24K09774)、基盤研究(A)「個体ごとの表現型を決める非細胞死カスパーゼ活性化機構の解明」(21H04774)、学術変革領域研究(A)「無脊椎動物免疫センサーTollによる自己免疫応答の分子機構と生理機能」(23H04766)、基盤研究(A)「個体差を生み出す表現度制御の分子基盤解明」(24H00567)、学術変革領域研究(A)「Tollによる免疫応答の制御と個体差発現の分子機構」(25H01842)、日本医療研究開発機構(AMED) 老化メカニズムの解明・制御プロジェクト「老化臨界期を決める体内機構」(JP21gm5010001)、武田科学振興財団 薬学系研究助成の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(723KB)
<論文タイトル>
- “S-adenosylmethionine metabolism buffering is regulated by a decrease in glycine N-methyltransferase via the nuclear ubiquitin–proteasome system”
- DOI:10.1073/pnas.2417821122
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