ポイント
- 設計が極めて難しい空間反転対称性の破れた2次元MOFを合成し、新しい強誘電イオン伝導体として機能することを見いだした。
- 従来の強誘電体の約1000倍の分極値を達成した。
- 水蒸気に応答した第二次高調波発生(SHG)の変換を達成した。
九州大学 大学院理学研究院の大谷 亮 准教授、宋 衍慶 氏(2024年9月修士課程卒業)、時 雨新 氏、村上 優介 氏、平松 光太郎 教授、Le Ouay Benjamin(ルウェ・バンジャマン) 助教、大場 正昭 教授らは、九州大学 大学院総合理工学研究院の辻 雄太 准教授、近畿大学 理工学部の杉本 邦久 教授、株式会社リガクの菊池 貴 氏と共同で、空間反転対称性の破れた2次元MOF、[Mn(salen)]2[ReN(CN)4(MeCN)]・H2Oを開発し、室温で20ミリクーロン/平方センチメートル(0.005ヘルツ)の巨大な分極値を持つ「強誘電プロトン伝導体」であることを発見しました。
燃料電池分野などで研究開発が進むイオン伝導体(固体電解質)ですが、一般的にはイオン伝導と強誘電特性は両立しないと考えられてきました。しかしながら、本材料はこの常識を覆し、2次元MOFの分極反転と結晶内のイオンの移動現象が同期することで、強誘電特性を顕著に増強した機能性を示しました。その結果、従来の強誘電体の約1000倍の分極値を達成しました。
また、[Mn(salen)]2[ReN(CN)4(MeCN)]・H2Oは波打ち2次元構造を持ち、面内方向のひずみが一方向にそろう(空間反転対称性が破れる)ことで極性が発現していました。この空間反転対称性の破れはプロトン伝導の媒体となっている水分子が誘起しており、第二次高調波発生(SHG)を水蒸気により変換可能な2次元MOFであることも明らかにしました。強誘電プロトン伝導体は、従来の極性材料とは一線を画す機能性を持つ固体材料として現在大きく着目されています。
以上の結果は、多様な物質系で強誘電イオン伝導を実現できる可能性を示しており、限りある資源を利用して高機能性固体材料を開発する指針となるだけではなく、材料の再利用・再資源化にも寄与する社会貢献につながると期待されます。
本研究成果は、2025年6月26日(日本時間)に、イギリス王立化学会(RSC)の国際学術誌「Chemical Science」にオンライン掲載されました。
本研究の一部は、JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR24M2)、同 創発的研究支援事業(JPMJFR216R)、日本学術振興会 科学研究費(JP22H05144、JP22H05145、JP22H05146、JP24K21784、JP24K01457、JP21K18936、JP24K01499、JP22K19052、JP24K08447、JP23K23297)、旭硝子財団、住友財団、カシオ科学振興財団、村田学術振興財団、SPring-8(2022B0544、2022B1633)の支援を受けたものです。
<プレスリリース資料>
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<論文タイトル>
- “A ferroelectric proton conductor with colossal polarization induced by in-plane symmetry breaking in a two-dimensional coordination polymer”
- DOI:10.1039/d4sc08700c
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