東京大学 物性研究所,名古屋工業大学,科学技術振興機構(JST)

2025(令和7)年5月29日

東京大学 物性研究所
名古屋工業大学
科学技術振興機構(JST)

プロメテ古細菌から高感度な光駆動水素イオンポンプを発見

~真核生物の出現に関わる古細菌による新たな光利用~

ポイント

東京大学 物性研究所の井上 圭一 准教授、今野 雅恵 特任研究員、同大学 大学院理学系研究科の濡木 理 教授、志甫谷 渉 助教(研究当時、現:慶應義塾大学 准教授)、田中 達基 特任助教、松﨑 悠真 大学院生、村越 峻也 大学院生、名古屋工業大学の神取 秀樹 特別教授、片山 耕大 准教授、吉住 玲 研究員、板倉 彰汰 大学院生(研究当時)、水野 陽介 大学院生らによる研究グループは、真核生物の共通祖先に最も近い現生生物種の1つであるヘイムダル古細菌が、カロテノイド色素を用いて、高効率に太陽光のエネルギーを捉えることで、それを元に水素イオン(H+)を輸送し、化学エネルギーへと変換するたんぱく質である「ヘイムダルロドプシン」を持つことを明らかにしました。

本研究では先端的なレーザー技術を用いた分光計測により、ヘイムダルロドプシンのカロテノイド色素が光アンテナとして光を捉え、そのエネルギーをH+輸送に利用することを世界で初めて明らかにしました。またX線結晶構造解析によって、多様なカロテノイド色素の結合に適した独自の構造を捉えることにも成功しています。これまでヘイムダル古細菌が高効率で光を捉え、自身の生育に役立てているという事実は全く知られておらず、生命の進化を考える上で重要な、この種のこれまでにない新たな一面を明らかにした点で本研究成果は大きな学術的意義を有します。またヘイムダルロドプシンはルテインなど、ヒトの体内にも存在するカロテノイドを利用することから、本たんぱく質は新たな生体分子ツールとして、今後高感度な視覚再生や、光を用いた神経疾患治療技術の開発に役立つことが期待されます。

本成果は、英国の科学雑誌「Nature Microbiology」2025年5月29日付(現地時間)オンライン版に掲載されました。

本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業(学術変革領域研究(A)「タンパク質機能のポテンシャルを解放する生成的デザイン学」における「ロドプシンの機能発現メカニズムの統合的理解と機能向上(研究代表者:井上 圭一、課題番号:JP24H02268)」)、学術変革領域研究(A)「分子サイバネティクス―化学の力によるミニマル人工脳の構築」における「微生物ロドプシンを用いた光による人工細胞への高速刺激入力法の開発(研究代表者:井上 圭一、課題番号:JP23H04404)」、特別推進研究「光遺伝学を支えるロドプシンの作動メカニズムの解明(研究代表者:神取 秀樹、課題番号: JP21H04969)」、および科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「データ駆動・AI駆動を中心としたデジタルトランスフォーメーションによる生命科学研究の革新(研究総括:岡田 康志)」における「AIが先導するオートメーションタンパク質工学の創出(研究代表者:井上 圭一、課題番号:JPMJCR22N2)」、CREST「光の特性を活用した生命機能の時空間制御技術の開発と応用(研究総括:影山 龍一郎)」における「細胞内二次メッセンジャーの光操作開発と応用(研究代表者:神取 秀樹、課題番号:JPMJCR1753)」、文部科学省・学際領域展開ハブ形成プログラム・マルチスケール量子-古典インターフェース研究コンソーシアム(課題番号:JPMXP1323015482)、AMED「創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業」および「革新的先端研究開発支援事業インキュベートタイプ」の一環として、放射光施設などの大型施設の外部開放を行うことで優れたライフサイエンス研究の成果を医薬品等の実用化につなげることを目的とした「創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)(研究代表者:濡木 理、課題番号:JP22ama121012)」による支援を受けて行われました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Light-harvesting by antenna-containing rhodopsins in pelagic Asgard archaea”
DOI:10.1038/s41564-025-02016-5

<お問い合わせ先>

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