ポイント
- 細胞内のたんぱく質をゲノムDNAに結合した状態で抽出し(ChIP)、クライオ電子顕微鏡解析(CryoEM)により可視化するChIP-CryoEM法を確立しました。
- ChIP-CryoEM法により、ヒト細胞内のゲノムDNAをRNAに転写中のRNAポリメラーゼIIの立体構造を可視化することに成功しました。従来の知見を再確認するとともに、新規のRNAポリメラーゼII複合体を発見し、ゲノムDNA転写の新たな機構が明らかになりました。
- ChIP-CryoEM法をさまざまなたんぱく質に適用することで、遺伝子の転写のみならず、複製、修復、組み換えなどのDNA機能の制御に関する研究が加速し、多様な疾患の原理解明と創薬への貢献が期待されます。
東京大学 定量生命科学研究所の鯨井 智也 助教、胡桃坂 仁志 教授らによる研究グループは、解析対象のたんぱく質をゲノムDNAに結合した状態で抽出する方法(ChIP:Chromatin immunopurification)とクライオ電子顕微鏡解析(CryoEM:Cryo-electron microscopy)を組み合わせた「ChIP-CryoEM法」を確立しました。本方法を用いて、遺伝子発現においてDNAからRNAを合成する酵素RNAポリメラーゼIIの構造解析を行い、ヒト細胞内でゲノムDNAを転写中のRNAポリメラーゼIIの立体構造を可視化することに初めて成功しました。構造解析から、これまで試験管内で再構成されたRNAポリメラーゼIIの立体構造解析の結果を確認したことに加えて、新規のRNAポリメラーゼII複合体構造を発見しました。これらの結果は、RNAポリメラーゼIIの転写機構の解明に対して新たな知見を与えると同時に、細胞内のさまざまなDNA結合型たんぱく質の効率的な立体構造解析につながる新たなツールとして寄与することが期待されます。
本研究成果は、現地時間2025年5月28日付で科学誌「Nature Communications」に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科研費(課題番号:JP20H03201、JP20H05690、JP22K15033、JP23K17392、JP24H00062、JP23H05475、JP24H02328、JP22K06098、JP22KJ0858、JP22J20655、JP22H04696、JP23H04288、JP21H05292、JP23H02394、JP23H00372、 JP24H02323、JP22H04676、JP22K19275、JP20H03182)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ERATO(課題番号:JPMJER1901)、同 CREST(課題番号:JPMJCR24T3、JPMJCR24Q1、JPMJCR23N3)、同 さきがけ(課題番号:JPMJPR2026)、日本医療研究開発機構(AMED) 革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)(課題番号:JP23gm1810008)および生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)(課題番号:JP25ama121009、JP23ama121017j0001)の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(705KB)
<論文タイトル>
- “Multiple structures of RNA polymerase II isolated from human nuclei by ChIP-CryoEM analysis”
- DOI:10.1038/s41467-025-59580-x
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
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東京大学 定量生命科学研究所 教授
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<JST事業に関すること>
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科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部 ICT/ライフイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K's五番町
Tel:03-3512-3528
E-mail:eratowwwjst.go.jp
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<報道担当>
東京大学 定量生命科学研究所 総務チーム
Tel:03-5841-7813
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