ポイント
- 大腸に炎症が起こると肝臓がその炎症を感知し、その情報を脳・膵臓(すいぞう)へ伝え、膵臓でインスリンを作るβ細胞を増やす仕組みをマウスにおいて発見しました。
- 肥満時にも大腸の炎症が起こっており、同様の仕組みによって膵臓のβ細胞が増えることを解明しました。
- β細胞の数を調節することにより、血糖値が正常に保たれる仕組みの解明に加え、この仕組みを調節することによる糖尿病の予防法・治療法の開発が期待されます。
肥満と糖尿病の発症には密接な関係がありますが、軽度の肥満で糖尿病にならないのは、血糖値を下げるホルモン(インスリン)を作る膵臓のβ細胞が増えてインスリンを多く出せるようになるからです。これまで、東北大学病院の研究グループは、肝臓が肥満の状態を感知し、肝臓、脳、膵臓を経由した神経信号伝達システムを使ってβ細胞を増やしていることを明らかにしてきました。しかし、肝臓がどのようにして肥満状態を感知してβ細胞を増やすのかは不明でした。
東北大学 大学院医学系研究科 糖尿病代謝・内分泌内科学分野および東北大学病院 糖尿病代謝・内分泌内科の今井 淳太 特命教授、久保 晴丸 医師(現 北里大学病院 内分泌代謝内科 助教)、片桐 秀樹 教授らのグループは、高カロリーの食事などによって肥満になると大腸に炎症が起こり、大腸で生じる炎症性の物質が漏れ出て肝臓に流入することが起点となり、肝臓、脳、膵臓をつなぐ神経信号伝達システムを使ってβ細胞を増やしていることを明らかにしました。さらに、肥満でなくても、大腸に炎症が起こるだけで、この仕組みによってβ細胞が増えることも見いだしました。この発見により、β細胞の数を調節して血糖値が正常に維持されるメカニズムの解明に加え、このシステムを調節することによる糖尿病の治療法や予防法の開発が期待されます。
本研究成果は、2025年5月8日(現地時間)に米国臨床調査協会が発行する学術誌「JCI Insight」に掲載されました。
本研究は、文部科学省 科学研究費補助金(課題番号:23K24383、22K19303、20H05694)、科学技術振興機構(JST) ムーンショット型研究開発事業「目標2:2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現」の研究課題「恒常性の理解と制御による糖尿病および併発疾患の克服(プロジェクトマネージャー:片桐 秀樹、課題番号:JPMJMS2023)、日本医療研究開発機構(AMED) 革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域における研究開発課題「組織の適応・修復のための神経シグナルを介した細胞増殖制御機構の解明(研究開発代表者:今井 淳太、課題番号:21gm6210002h0004)」の支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(705KB)
<論文タイトル>
- “Colonic inflammation triggers β-cell proliferation during obesity development via a liver-to-pancreas inter-organ mechanism”
- DOI:10.1172/jci.insight.183864
<お問い合わせ先>
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