慶應義塾大学 医学部 内科学(呼吸器)教室の安田 浩之 准教授、同 大学院医学研究科の福島 貴大(大学院生)、同 医化学教室の佐藤 俊朗 教授らの研究チームは、33人の小細胞肺癌患者から「オルガノイド」を樹立し、一部の小細胞肺癌(非神経内分泌タイプ)がIGF-1と呼ばれる増殖因子に強く依存して増殖していること、IGF-1の受容体であるIGF1Rに対する阻害剤が新しい治療薬の1つとして有効である可能性を見いだしました。
小細胞肺癌は、癌の病態解明が進んでおらず有効な治療法が限られる病気です。手術できない小細胞肺癌患者の5年生存率は10パーセント以下であり、難治性癌の代表とされています。
研究チームは、総計33例の小細胞肺癌患者組織から40種類の小細胞肺癌オルガノイドを樹立しました。近年、小細胞肺癌は遺伝子発現のパターンから4つのタイプ(ASCL1、NEUROD1、POU2F3、YAP1)に分かれることが分かっており、タイプごとに特効薬となる治療法の確立が期待されています。研究チームの確立したオルガノイドには、これら4タイプが含まれ、全体の約3割にあたる非神経内分泌タイプ(POU2F3、YAP1タイプ)の小細胞肺癌は、IGF-1(インスリン様増殖因子)による刺激によって増えることが分かりました。さらに、研究チームは動物モデルを用い、IGF-1の受容体であるIGF1Rに対する阻害剤(IGF1R阻害剤)による治療がこれらのタイプの小細胞肺癌治療に有効であることを見いだしました。これらの研究により、難治性癌の代表であり有効な治療薬が限られる小細胞肺癌で、IGF1R阻害剤を用いた新たな治療法開発(個別化医療)に発展することが期待できます。
本研究成果の詳細は、2025年4月30日(英国時間)に英科学誌「Nature Cancer」電子版に掲載されます。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED) 次世代がん医療創生研究事業「がん多階層フェノタイプの理解に基づいた先端的創薬システムの開発」、革新的先端研究開発支援事業「新しい4次元モデルシステムを用いた腸管線維化疾患の病態解明」、次世代がん医療創生研究事業「肺癌オルガノイドライブラリー統合解析による癌の不均一性の解明と新規治療標的同定」、革新的がん医療実用化研究事業「肺癌オルガノイドライブラリーを用いた肺癌フェノタイプ多様性を規定する分子基盤解明と新規治療標的同定」、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業「非癌肺オルガノイドを用いた発癌プロセス本態解明と先制医療への応用」(JPMJFR2215)、ムーンショット型研究開発事業「生体内ネットワークの理解による難治性がん克服に向けた挑戦」(JPMJMS2022)、戦略的創造研究推進事業 ERATO「佐藤オルガノイドデザインプロジェクト」(JPMJER2303)、JSPS 科研費(JP21H02765、JP22K08290、JP22KJ2670)、日本学術振興会 特別研究員、潮田記念基金 博士課程学生研究支援プログラム 、森正文肺癌制圧寄付研究講座、高橋産業経済研究財団の支援によって行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(741KB)
<論文タイトル>
- “An organoid library unveils subtype-specific IGF-1 dependency via a YAP-AP1 axis in human small cell lung cancer”
- DOI:10.1038/s43018-025-00945-y
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