ポイント
- 北極域は、世界で最も温暖化が速く進行している地域です。数値気候モデルは北極の温暖化を観測よりも過小評価する系統誤差が知られていますが、その原因は未解明でした。
- 世界各国で開発されている30の気候モデルの解析により、雲粒と氷晶の割合が放射特性に影響することで北極温暖化の度合いを左右する、新しいフィードバック機構を解明しました。
- 中緯度の気象現象にも密接に関わる北極気候を雲の素過程からひもといたことで、温暖化予測の高精度化に加え、異常気象の将来変化の理解にも貢献することが期待されます。
全球平均の温暖化のペースと比較して、北極域は3〜4倍の速さで温暖化が進行しています。北極気候は中緯度の異常気象の発生にも密接に関わっているため正確な温暖化予測が必要となりますが、数値気候モデルによるシミュレーションでは北極温暖化のペースを過小評価する系統誤差が存在します。その原因として複数の要因が挙げられていますが、正確な理解には至っていませんでした。
九州大学 大学院総合理工学府 修士課程1年の中西 萌々花 氏ならびに九州大学 応用力学研究所の道端 拓朗 准教授は、北極温暖化の過小評価バイアスの原因の1つに、雲の内部構造の再現性が大きく関連している可能性を指摘しました。世界の30の気候モデルを解析した結果、21モデルが衛星観測よりも雲中の氷晶割合を過大評価しており、そのようなモデルでは雲が地表面を温める温室効果を系統的に弱く再現することを理論的に説明することに成功しました。
これまでの研究でも、雲粒と氷晶が共存して構成される混合相雲の相状態が温暖化によって変化することで、放射特性が変化する“雲相フィードバック”の重要性は指摘されていましたが、太陽放射(短波放射)に対する影響に議論が限定されていました。本研究では、太陽放射がない極夜期のみを解析することで地球放射(長波放射)に対する雲の影響を調査した結果、雲粒と氷晶の比率によく対応する雲の長波放射射出率によって特徴付けられる温室効果の度合いに、本質的な観測との誤差が存在することを発見しました。これは、将来温暖化した際に氷晶が融解して液体の雲粒に相変化する際にも、極めて重要なモデル誤差の要因となります。短波放射に着目した従来の研究とは異なり、長波放射に対する影響に着目した雲相フィードバックを、雲の長波放射射出率に起因して駆動されるメカニズムを強調し“雲の射出率フィードバック”と新たに名付けました。
本研究による発見により、北極温暖化の予測結果が気候モデル間で大きくばらつく原因の解明につながるほか、北極気候の再現性と結び付く中緯度の異常気象予測の精度向上にも寄与することが期待されます。
本研究成果は、Science Partner Journalsの国際学術誌「Ocean-Land-Atmosphere Research」に2025年4月29日(火)(日本時間)に掲載されます。
本研究は、JST 創発的研究支援事業(JPMJFR206Y)、JSPS 科研費(JP23K13171、JP19H05669)、環境省・(独)環境再生保全機構環境研究総合推進費(JPMEERF21S12004)、文部科学省「気候変動予測先端研究プログラム」(JPMXD0722680395)の助成を受けたものです。
<プレスリリース資料>
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<論文タイトル>
- “How does cloud emissivity feedback affect present and future Arctic warming?”
- DOI:10.34133/olar.0089
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