ポイント
- 詳細な時系列データと大規模解析、それを統合し俯瞰するネットワーク解析を駆使して、マウスの肝臓における飢餓適応の全容を解明し、肥満が引き起こす病理像を明らかにしました。
- その結果、飢餓時のマウス肝臓の細胞内分子ネットワークが、肥満に対して構造的には堅牢(けんろう)である一方、時間的には脆弱であることを示しました。
- 本研究の成果は、生活習慣病の治療介入への貢献や、医学・生命科学ビッグデータを理解する方法論としての応用が期待されます。
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻の黒田 真也 教授と、同研究科 附属遺伝子実験施設の守田 啓悟 助教らによる研究グループは、新潟大学 大学院医歯学総合研究科の松本 雅記 教授、幡野 敦 助教、奈良先端科学技術大学院大学の小鍛治 俊也 助教、東京大学 大学院新領域創成科学研究科の鈴木 穣 教授、九州大学 生体防御医学研究所の馬場 健史 教授、和泉 自泰 准教授、高橋 政友 助教、慶應義塾大学 先端生命科学研究所の曽我 朋義 教授、平山 明由 准教授らとの共同研究により、マウス肝臓における飢餓時の代謝トランスオミクスネットワークが、肥満に対して構造的には堅牢である一方、時間的には脆弱であることを明らかにしました。
本研究では、大規模な時系列データから構築した飢餓時の代謝トランスオミクスネットワークを、ネットワーク理論と時定数から読み解きました。その結果、これまで個別の分子ごとに研究されていた飢餓への適応が、システムとしてどのように統合されているのかを統一的に明らかにすることに成功しました。また、そのようなシステムが肥満によってどのような障害を引き起こすのかについても突き止めました。本研究の研究成果は、肥満や糖尿病などの病理の理解や、それらの治療法の開発に役立つことが期待されます。
本研究成果は、2025年4月23日付(日本時間)で「Science Signaling」に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST 研究領域「多細胞間での時空間的相互作用の理解を目指した定量的解析基盤の創出」 研究課題名「時空間トランスオミクスを用いた多細胞・臓器連関代謝制御の解明」(課題番号:JPMJCR2123 研究代表者:黒田 真也)、同 先端国際共同研究推進事業(ASPIRE) 研究課題名「細胞運命決定のデータ駆動型マルチスケールエンジニアリング」(課題番号:JPMJAP24B1 共同研究者:黒田 真也)、日本学術振興会における科学研究費助成事業の新学術領域研究(研究領域提案型)「2型糖尿病の代謝アダプテーション」(課題番号:JP17H06299、JP17H06300 研究代表者:黒田 真也)、学術変革領域研究(A) 冬眠生物学2.0(課題番号:JP23H04939、JP23H04946 研究代表者:黒田 真也)、若手研究 飢餓時代謝アダプテーションのトランスオミクス解析(課題番号:21K15342、研究代表者:守田 啓悟)の一環として行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(557KB)
<論文タイトル>
- “Structural robustness and temporal vulnerability of the starvation-responsive metabolic network in healthy and obese mouse liver”
- DOI:10.1126/scisignal.ads2547
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